CO₂回収の現状と将来の展望

2024-06-21
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「二酸化炭素(CO2)の回収・利用・貯留(CCUS)はカーボンニュートラル社会を実現するために不可欠な技術だが、それだけでは石油・ガス業界のCO2排出量を実質ゼロにすることはできない。」

これは、国際エネルギー機関(IEA)が最近の調査から導き出した結論です。

IEAのファティ・ビロル事務局長は、CCUSがすべてのCO2排出量を回収する特効薬になると石油・ガス業界が考えるのは幻想だと述べています。一方で、IEAは、CCUSを「現状維持の手段」ではなく、「特定のセクターや状況においては、CO2排出の実質ゼロを達成するために必要不可欠な技術」と考えています。

では、脱炭素化の目標に向け、技術の進歩はいかに図られているのでしょうか。また政策や法律により、技術の開発・導入はどのように促進されているのでしょうか。

IEAのCCUSデータベースによると、米国テキサス州のPetra Novaなどのプロジェクトにより、2030年までに世界で4億3,000万トンのCO<sub>2</sub>排出量を削減することが可能になる
IEAのCCUSデータベースによると、米国テキサス州のPetra Novaなどのプロジェクトにより、2030年までに世界で4億3,000万トンのCO2排出量を削減することが可能になる

最新のCCUS技術

IEAのCCUSデータベースには、発電等の際に排出されるCO2の回収を行っている稼働中のプラントとして51か所がリストアップされています。一見少ないように見えるかもしれませんが、計画段階(または建設されているが未稼働)のプラントがおよそ800か所あり、今後稼働するプラント数は増えていく予定です。2030年までに稼働すると発表されているCO2回収能力は、現在の35%増となり、今後6年間で世界における回収可能なCO2の総量は4億3,000万トンを超えると見込まれています。

追い風となっている要因の1つが、技術の急速な進歩です。例えば三菱重工は1990年から関西電力株式会社と共同で、独自のアミン吸収液KS-1を用いたKM CDR Processの開発を行ってきました。昨今、地球温暖化対策のため世界各国で大規模CCSやCCUSプロジェクトが推進される中、CO2回収の省エネルギー性能、運用コスト低減、環境負荷低減などの課題に対応するため、両社は新型吸収液「KS-21」およびKS-21を採用した最新鋭のCO2回収プロセス「Advanced KM CDR Process」を開発しました。これにより、優れた効率性、低い揮発性、および劣化に対するより高い安定性を実現しています。

また近年、注目されている非水溶媒は、CO2回収を効率的かつ費用対効果の高いものにする技術として期待されています。

また、CO2回収システムは関連する溶媒の開発と同様に、より高度で多様なものになりつつあります。例えば、小型のCO2回収システムを導入すれば、中小規模の企業も、手頃な価格で容易にCO2回収技術を利用することができます。

小型のCO2回システム置は、標準化された設計を特徴とし、迅速な導入が可能であり、設備投資を抑えることができます。同システムは様々な分野に適応可能です。三菱重工は小型CO2回収装置「CO2MPACT」をセラミックスセメント業界、バイオマス発電所向けに提供しています。

三菱重工が提供する小型CO2回収装置「CO2MPACT」は様々な場所に容易に設置が可能
三菱重工が提供する小型CO2回収装置「CO2MPACT」は様々な場所に容易に設置が可能

CO2バリューチェーンの構築

様々な産業においてCO2回収が行われるようになれば、CO2バリューチェーンは、今後さらに洗練されたものになっていくでしょう。

回収されたCO2の大部分は地下に貯留されることになりますが、CCUSの「U」は利用という意味であることを忘れてはいけません。回収されたCO2は肥料業界やセメントメーカーなどからの需要があるため、バリューチェーンを構築することで、CO2を取引可能な資産に変えることができます。

パイプラインや船舶によるCO2の輸送は、このバリューチェーンにとって不可欠な要素であり、この分野でも技術は進化を続けています。例えば、三菱重工グループでは、三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社の相模原工場内にあるガスエンジン設備から回収したCO2を液化する実証実験を行いました。三菱重工グループの技術はCO2回収から液化、輸送までのすべてを網羅しています。

CCUS市場の活性化

このように、技術は進歩しCO2回収プロジェクトは急速に増加しつつあるにもかかわらず、CCUSは未だ発展途上にあります。投資が決まった案件の数は徐々に増えつつありますが、2030年の時点で稼働することが発表されているプラントのうち、すでに稼働しているか、もしくは最終投資が決定した案件は20%に過ぎません。

技術を前進させるうえで有用なのは政策による支援です。CCUS技術の導入を世界各国に呼びかけるため、2023年4月、炭素管理チャレンジ(The Carbon Management Challenge)が立ち上げられました。これまでのところ、19カ国と欧州委員会(EC)が参加を表明しています。

欧州委員会はまたEU産業炭素管理戦略を発表し、2030年までにEU域内でCO2貯留能力を年間5,000万トンにする目標を掲げました。これは5億9,400万ユーロをかけた8つの国境を越えたエネルギー・インフラ・プロジェクト(5つのCO2ネットワーク・プロジェクトを含む)に続くものです。          

一方、日本は2050年までにカーボンニュートラルを達成するための取り組みの要としてCCUSを位置づけています。日本政府は2050年までに年間1億2,000万トンから2億4,000万トンのCO2を貯留するのに十分なCCS事業の開発を計画しており、2023年6月には、7つのプロジェクトへの財政支援を発表しています。

米国はインフレ抑制法(IRA)を成立させ、恒久的なCO2貯留に対して、回収したCO2のトン当たりの税控除額を50ドルから85ドルに引き上げました。

IEAが指摘しているように、CCUSはCO2排出量を完全にゼロにするための特効薬ではありません。最終的にネットゼロを達成するためには、膨大な数の脱炭素技術を開発し、そのための戦略を展開しなくてはなりません。技術の進歩と政策による支援は、ネットゼロを達成するためにはなくてはならない、パズルの重要なピースであることに変わりありません。

リアム・コールマン

リアム・コールマン

ジャーナリストやマーケティングの専門家として、10年以上にわたり活動。企業や消費者向けに、さまざま記事を執筆。

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