脱炭素化の鍵となる小型CO2回収システム
2050年までのNet Zero達成に向けたあらゆる競争は、産業界への大きな負担となっています。今後、再生可能エネルギーと並び、CO2回収技術が脱炭素化に向けた取り組みに対して重要な役割を果たすことになります。
2020年末の時点で、商用規模のCO2回収事例は世界全体で26件のみであり、CO2回収量は年間4,000万トンに留まっています。国際エネルギー機関(IEA)によれば、パリ協定が掲げる2050年のNet Zeroを達成するために、CO2回収量を現在の約200倍にあたる76億トンに増やす必要があります。
三菱重工グループが開発した小型CO2回収システムは、小・中規模の企業でも手軽に利用できる技術を適用することで、CO2回収・利用・貯留(CCUS)の早期普及に貢献します。
規模が小さくても簡単にCO2回収を実現
現在稼働中のCO2回収システムの多くは、装置のサイズが大きく高価であるため、主に鉄鋼や発電ビジネスに携わる大きな企業で活用されています。IEAも、この技術の普及を妨げている最大の理由は高いコストにある、と述べています。
小・中規模の企業では、個々のCO2排出量は多くないため、サイズの大きなCO2回収システムは適していません。また、この技術に多額の設備投資をする資金もありません。
小型CO2回収システムのコンセプトは、こうした問題を解決します。
このシステムは標準化されたコンポーネントで構成されているため、装置に係るコストを削減することが可能です。また、輸送用コンテナと同程度の大きさであるため、簡単かつ迅速に製造・輸送して工場現場へ設置することができ、建設に係るコストとリードタイムを削減してCO2回収を直ちに開始することが可能になります。
小型CO2回収システムは、1日当たり60-100トンのCO2回収に適しており(大規模な産業向けには1日当たり200トン以上のCO2回収も可能)、自動車工場や廃棄物発電プラント、セラミックス、紙・パルプ、ゴム工場などに適用できます。
CCUSバリューチェーンの構築
小・中規模の企業にとってのもう一つの障壁は、CO2回収技術が自社の中核事業とかけ離れていることです。そのため、自社でCO2回収システムを運用、保守する能力はほとんどなく、ましてや回収したCO2の処理について考えることもありません。
これを解決する一つのソリューションは、システムの設置、運用、保守を専門の第三者機関にアウトソーシングすることです。三菱重工グループでは、小型CO2回収システムを、回収したCO2のハンドリングも含めた統合サービスとして提供していきます。これは、例えば合成燃料やプラスチックの製造などにおいて、工業用途としてCO2を貯蔵・利用することによって可能となります。
システムの設置にかかる初期投資を抑え、運用と保守をアウトソーシングできるようにすることは、CO2回収技術の普及に向けた重要なステップとなります。これは、小・中規模の企業が手軽に利用できる共用インフラのようなCCUSハブ開発のアプローチとともに、世界の脱炭素化に向けた2つの重要な目標達成を可能にします。
脱炭素化の加速
第1の目標は、CO2回収を早急に加速することです。COP 26前後に発表された各国の政府公約があるにもかかわらず、2050年までにNet Zeroを達成し、産業革命前からの気温上昇を1.5°Cに抑えるという目標に、世界はまだ近づけていません。CCUSの利用促進により、産業界がCO2排出量削減を加速することでNet Zeroの目標達成が可能である、という道筋を示すことになります。
第2の目標は、回収したCO2を必要な場所へ輸送する積極的なCCUSバリューチェーンを構築することです。総合的なCO2市場を構築することによって、現時点の負債を資産に変えることができます。
これには、CO2を輸送するための物理的なインフラだけでなく、三菱重工グループとIBMが共同で構築を目指す、CO2の売り手と買い手を結びつける取引を実現するためのデジタルプラットフォーム「CO2NNEX」も含まれます。
大きな企業と小・中規模の企業をつなぐCO2エコシステムを構築することで、CCUSとその関連技術がより手軽に利用可能なものとなり、2050年のNet Zero達成が現実のものになってくるでしょう。
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