核融合エネルギーが実現する未来とは

2022-05-10
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地球環境に影響を与えず、増え続ける需要を安全かつ持続的に満たすことができるエネルギー源──。そんな「人類の夢」ともいえるものが、核融合エネルギーです。

三菱重工も参画するITER(イーター)プロジェクトは、世界7極35カ国(米国、ロシア、中国、日本、韓国、インド、EU)が協力して進めている核融合エネルギーの国家間プロジェクト。それは、地球上に太陽をつくろうとしている、と言い換えることもできます。地球上の全エネルギー源は太陽であり、太陽のエネルギーは核融合エネルギーだからです。

ではそれが完成し、実用化されるようになったら、どんな未来が待っているでしょうか?

人類が手にする究極のエネルギー源

2022年1月27日、その問いに答えるべく、三菱みなとみらい技術館オンライントークイベント『SF思考で考える──核融合エネルギーが実現する未来社会とは──』が開催されました。そこではITER計画の最前線で活躍するITER日本国内機関長の杉本誠氏、ITER機構首席戦略官の大前敬祥氏が、プロジェクトの進捗や日本の取り組みを紹介。また、三菱総合研究所参与の関根秀真氏をモデレーターに、『SF思考--ビジネスと自分の未来を考えるスキル』の編著者である三菱総合研究所シニアプロデューサーの藤本敦也氏やSF作家の野尻抱介氏を交えたフリートークを通して、核融合エネルギーの可能性についてディスカッションしました。
まず冒頭で、フランス南部の現地でITER計画を牽引する大前氏が、ITER計画の進捗状況について説明。すでに巨大なITERトカマクマシンの土台となる1,000トンを超える構造体がミリ単位で設置され、真空容器と超伝導トロイダルコイル、熱遮蔽から成るトカマクマシンの初セクターのサブ-アッセンブリも完成しており、2025年の稼働を目指すこの壮大なプロジェクトが着実に進んでいることを報告しました。また、核融合エネルギーの5つのメリットと人類への5つのインパクトについて、次のように説明しました。

【核融合エネルギーの5つのメリット】
1 膨大なエネルギーを創出し、持続運転が可能。人類の生活を支えるベースロード候補になりうる
2 安全(原理上メルトダウンは起こらない)
3 CO2およびそのほかの温室効果ガスを一切排出しない
4 高レベル放射性廃棄物を出さない(約100年で自然界に存在するレベルに戻る低レベル放射性廃棄物は出る)
5 燃料源にほぼ困らなくなる(海水中から回収できる資源を活用するため、事実上、無尽蔵のエネルギー源といえる)

【人類への5つのインパクト】
1 ほぼ無制限に利用できる究極のエネルギー源の獲得
2 現代文明の「電気社会」への移行の加速と、地球温暖化問題の解決
3 化石由来燃料の保有/埋蔵に基づく地政学パワーの消滅と、それに起因する紛争の消滅
4 世界各地の電力入手コストの低廉により、二次効果として各種諸問題(食料-水-貧困-教育など)の解決
5 宇宙進出に必要なエネルギー源の確保

「いずれ、飢餓や貧困、教育格差といった諸問題が、『かつてはそういうものもあったよね』と博物館でしか確認できないようになればいい。自分が生きているうちには実現できないかもしれないが、そんな未来のために、前の世代からバトンを渡された私たちは、区間賞を取るくらいの気持ちで全力を傾けています」

大前氏は、そう話しました。

核融合エネルギーによって、さまざまな問題が解決される可能性は高い
核融合エネルギーによって、さまざまな問題が解決される可能性は高い

核融合エネルギーが実現する未来

日本でITER計画を牽引する杉本氏は、核融合エネルギーが実用化されるようになったら「人類がより長生きできるようになることが考えられる」と言います。

また、『SF思考』の編著者でもある藤本敦也氏は、SF思考の方法として、意外性のある言葉を掛け合わせて未来を垣間見ることを紹介し、一例の「核融合×農業」では、「多量のエネルギーが必要とされる野菜/魚の生産工場が安くできるようになる可能性」に言及。また「核融合×住居」では、「住居が移動できるようになり、例えば月曜日は京都で実験のクラスを受け、火曜日には家ごと引っ越して岐阜で音楽の授業を受けることができるようになるかもしれない」と想像します。

超伝導トロイダルコイルを作った技術がスピンオフして、医療用の加速器が小さくなれば、中規模病院や駅前のクリニックなどで、がんの治療ができるようになるかもしれません。また災害大国の日本で、不幸なことに被災しても、ライフラインが断たれることがない未来も考えられます杉本 誠ITER日本国内機関長

核融合エネルギーによって、ほぼ無尽蔵のエネルギーが手に入れば、膨大なエネルギーを必要とする宇宙旅行や宇宙開発がしやすくなることも十分に考えられます。

処女作から核融合を取り入れてきたというSF作家の野尻抱介氏は、宇宙旅行について「太陽のエネルギーは距離の二乗に反比例して弱くなっていくので、それが使えるのは火星ぐらいまで。核融合エネルギーがあれば、その制限から解放され、人類のモビリティーが根本から変わるのです」と言います。月や火星よりも、もっと離れた宇宙への旅行――人類の可能性を拡げる夢のような話が現実となる日が来るかもしれません。

また、大前氏は宇宙開発について「宇宙空間上でつくるエネルギーで進めることができるようになる」と言います。宇宙開発に費やすエネルギーを宇宙空間上でつくることができれば、地球上のエネルギーをかけがえのない地球のために取っておくことができるようになります。

そして、そんな地球に優しい取り組みについて、モデレーターの関根氏は「月に拠点を築き、将来的にはそこから火星に人類を送り込むことを目論む「アルテミス計画」(米国が提案する国際宇宙探査計画)にも通じることかもしれない」と言い添えました。

美しい地球の資源は地球のために
美しい地球の資源は地球のために

原子核だけではなく、国々や人々の融合を

ITERの大きな意義は二つあります。核融合エネルギーを実現することと同じく、多くの国が関わっていることが重要なのです。ITERが成功すれば、科学技術力の達成だけでなく、人類が現在の地球上にある国境や人種、宗教、イデオロギーといった枠組みを超越して一致団結し、壮大なことを成し遂げられたと証明できます。原子核の融合だけではなく、国々や人々の融合。そこに夢があると思います大前 敬祥ITER機構首席戦略官

では、この壮大な計画をいかに実現していくのでしょうか?

2025年の稼働を目指してプロジェクトは着々と進んでいますが、一方で、核融合エネルギーは、未だ「実現しないもの」の代表格として挙げられることもあります。今後、次世代の人々をたくさん巻き込んで、「現実のもの」として認知を拡大していかなければなりません。

藤本氏は「エネルギーが潤沢にあることの素晴らしさを多くの人に伝え、共感を得ていくことが大事。可能性はものすごく大きいので、多くの人々に夢を持ってもらいたい」と言います。

テクノロジーの進化により、さまざまな課題が同時進行で解決されつつあります。例えば、プラズマの挙動もスーパーコンピュータでシミュレーションできるようになるかもしれないし、非常に複雑なトカマクが3Dプリンタでつくられるようになるかもしれません。そして核融合エネルギーが量産できるようになったら、世界中で使えるようになるかもしれません。エネルギーが潤沢にあればどれだけ素晴らしいでしょうか。みんなで頑張れば、そんな未来に辿り着けます野尻 抱介SF作家

地球に負担を強いることなく、エネルギーを無限に使える未来──。それを実現させようとしている壮大な計画が、今まさに進められているのです。

2020年、ITER用のトロイダル磁場コイルの初号機が完成
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三菱重工業

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