脱炭素化に貢献する水素エンジン発電セット
発電セットは、非常用発電や移動式発電の要となる装置です。高い信頼性と優れた適応性により、災害復旧から新興市場、離島、重要インフラでのオフグリッド導入まで、バックアップおよび自立運転での幅広い用途で不可欠な存在となっています。
従来、発電セットはディーゼルや天然ガスを動力源としていましたが、現在はエナジートランジションの一環として水素の利用が進められています。
三菱重工(MHI)グループの三菱重工エンジン&ターボチャージャ(株)は、このほど6気筒500kWクラスの水素専焼エンジン発電セットの試験運転を相模原工場で実施し、水素100%燃料を用いた起動、定格出力、停止までの安定運転を達成しました。
これらの発電セットは、今後どこで活用されるのでしょうか?
発電セットの仕組みと役割
発電セットとは、エンジンと発電機を組み合わせて発電を行う装置一式を指します。
具体的には、燃料(通常はディーゼル燃料またはガス)を燃焼させ、発電機を駆動する機械的エネルギーを生成し、そのエネルギーを電気に変換します。多くの場合、送配電網を利用できない場所や供給が不安定な場所で、一時的な非常用電源、または常設のオフグリッドエネルギー源として使用されています。
また、送配電網が利用可能な場合でも、工場や商業施設のオンサイト発電により、発生する廃熱を回収して再利用し、エネルギー効率を向上させる装置として使用されています。
発電セットはすでに世界のエネルギーミックスに不可欠な存在となっていますが、その重要性はますます高まっています。発電セット産業の市場規模は、2023年の6兆円から、2032年までに10兆円以上に拡大すると予測されています。
従来は化石燃料を使用していましたが、三菱重工をはじめとする各企業は、水素への転換により、この重要な動力源の脱炭素化に取り組んでいます。エナジートランジション実現の鍵となる水素は、燃焼時にCO2を排出せず、低CO2または排出ゼロの「グリーン」技術を用いて製造可能です。
水素発電セットの用途
発電セットの従来の用途から派生したものも多い一方で、新しい用途も登場しています。
急速に拡大するエネルギー需要に対応する分散型発電
エネルギー需要の急増や、再生可能エネルギー源のシェア増加に対応する必要性から電力需要がひっ迫した状態にあり、特にエネルギー集約型の工業施設や電力消費量の多いデータセンターが集中する局所的なホットスポットでは、その傾向が顕著です。
必要なエネルギーを確実に供給する上で、水素発電セットは、送配電網を補完する分散型電源として利用できるだけでなく、オフグリッドでも運転可能な装置です。
低炭素水素の生産量は増加しているものの、現在も十分とは言えません。大部分の水素は、依然として化石燃料を使って製造されています。国際エネルギー機関(IEA)によると、2023年の時点で、低炭素排出源から製造された水素は全体のわずか1%未満でした。
一方、世界で供給される水素の約6分の1は現在、鉄鋼、化学、半導体などの分野で副産物として製造されています。こうした産業においては、廃棄物を無償のエネルギー源として活用することにより水素発電セットをいち早く採用していくものと予想されています。
自給する水素ステーション
水素は、大型輸送の脱炭素化において重要な役割を持ち、トラックとバスの運行における脱炭素化で世界的に最も顕著な成長を遂げています。中国は輸送用水素の最大の市場で、これに韓国、米国、欧州、日本が続きます。
水素の「燃料供給」インフラが、主要道路や高速道路沿いの水素ステーションで拡大するにつれて、水素発電セットの新たな用途が生まれる可能性があります。水素は液状で最も効率的に輸送・貯蔵されます。しかし、液体水素は一部が蒸発するため、エネルギー損失が発生します。
蒸発した水素を発電セットに供給することにより、水素ステーションとその周辺向けに電力を生成し、廃棄物を電力に変換することが可能となります。
港湾での水素による電力供給
もうひとつ、水素発電セットの有望な活用先として期待されているのが港湾です。この傾向は以下の2つのトレンドに後押しされています。
第1に、洋上風力などの再生可能エネルギー源に近いことから、多くの水素製造プロジェクトが港湾周辺で開発されています。地元の電力を低コストで利用できるため、電気分解(電気を使って水から水素を抽出するプロセス)によるクリーンな水素の製造に適しています。その代表例が、三菱重工がパートナーとして参画しているオーストラリアのニューカッスル港クリーンエネルギー地区のプロジェクトです。
第2に、日本、韓国、そしてドイツのように再生可能資源が限られている国では、港湾が水素輸入の重要なハブとなります。
このトレンドを背景に、港湾インフラでの電力供給における水素利用が検討されています。すでに、船舶からのコンテナの積み降ろしや移動に用いられる大型クレーンやガントリーの動力源として、水素発電セットの試用が進んでいます。沿岸地域で水素の製造と輸送が継続して拡大し、港湾での脱炭素化が進めば、その役割は拡大するでしょう。
脱炭素化を一歩ずつ推進
発電セットは長い間、さまざまな環境でピーク時のエネルギー需要に対応するために重要な役割を果たしてきました。水素を動力源とする発電セットは、数年以内に商用モデルが登場することが予想され、技術プロバイダーが水素への移行を開始している今、その潜在的な用途が大幅に拡大することはほぼ確実です。その拡張性と横断的な汎用性のおかげで、エナジートランジション実現の重要な鍵となると言えるでしょう。
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