三菱重工の先進的なガスタービンでエナジートランジションを推進
電力需要の拡大とCO₂排出量の削減を両立させ、エネルギーの安定供給を図っていくことが、世界的な課題となっています。この課題を解決するために、重要な役割を担うのが、天然ガスです。石炭や石油よりもクリーンで、再生可能エネルギーよりも安定し柔軟に電力を供給することができる天然ガスは、エナジートランジションを成功へと導く鍵の一つであると言えるでしょう。
これは、国際エネルギー機関(IEA)が示したシナリオにも反映されています。世界のエネルギー供給に占める石炭と再生可能エネルギーの割合は、悲観的な見通しと楽観的な見通しの間で大きく異なるのに対し、天然ガスについては、少なくとも2030年までは世界のエネルギー供給の16~18%を安定的に賄うと予測されています (2022年は22%です) 。
現実の課題に向き合う
政策立案者はこの現実を受け入れるようになってきています。数年で世界全体が再生可能エネルギーだけで賄われるようになるという期待は、安定した電力供給への懸念などにより、徐々に薄れつつあります。同時に、世界で最も厳しい気候規制当局である欧州連合は、天然ガスはカーボンニュートラルへの移行において「重要」であると宣言しています。
また、電力会社や産業界など、当社の顧客も市場の動向に対応しています。例えば、データセンターなどのエネルギー需要の増加に対応するために、再生可能エネルギーだけでは限界がありエネルギー源を多様化する必要性を認識しています。水素やアンモニア燃料を利用できるガス火力発電所は、色々な面で、解決策になりうるでしょう。
これらはすべて、ガスタービンの強い需要につながります。最新のガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)発電所は、旧式の石炭焚き発電所に比べてCO₂排出量が65%低減されます。さらに、CO₂回収技術を導入することで、殆どのCO₂を除去することができます。そして、燃料が天然ガスではなく、燃焼時にCO₂を排出しない水素(またはアンモニア)に切り替われば、完全にCO₂は発生しません。このような期待から、今後の3~4年、ガスタービンは世界全体で年間約40~50GWの新設需要が継続し、その後もさらに着実な需要があると見込まれています。
先進的なソリューションの開発
水素混焼技術の急速な進歩がこの成長を支えることになるでしょう。ガスタービンの脱炭素燃料への適応は比較的容易であり、新型燃焼器の開発が鍵となりますが、三菱重工では2030年以降に大型ガスタービンで100%水素燃料による「CO₂ゼロ」を達成する計画です。さらに、中小型ガスタービンでは、水素100%専焼の試験を高砂製作所で既に始めています。
当社ガスタービン開発の秘訣の一つは、兵庫県にある高砂製作所の存在です。三菱重工は長年にわたり着実な投資を行うことで、この巨大な工場を、卓越した開発拠点にしてきました。ここは、同一敷地内でガスタービンの研究開発・設計・製造・実証を行っている、世界で唯一の工場なのです。
その結果、当社の製品群は出力規模や効率の面で、市場のどの製品にも引けを取らず、お客様からは次の重要な点でも優れているとの評価をいただいています。
まずは信頼性です。三菱重工は、地域の電力網に接続し、家庭や企業向けに実際に電力を供給している高砂製作所内の実証発電設備(第二T地点)で新機種や改良したパーツを1年間運転し、検証後に市場投入を開始します。検証を重ねた当社の最新鋭JAC形タービンの信頼性は、世界で99.5%に達しています。
また、当社は脱炭素化の最前線となる水素ガスタービンの早期商用化にも取り組んでいます。三菱重工は、長年にわたり宇宙事業で水素を取り扱ってきました。現在、高砂製作所に新たに設けられた「高砂水素パーク」では、水素を製造・貯蔵し、ガスタービン実機での混焼および専焼の実証を行っています。
最後は、アフターサービスです。ほとんどのお客様は、15年または20年の長期サービス契約(LTSA)を締結することを選択します。当社は、トラブルが発生した場合は、エンジニアリングチームを即座に派遣します。また、TOMONIによるリアルタイムの遠隔監視システムがトラブルを予測し、プラントの安定稼働と予防保全につなげています。
これらの取り組みを通じて、一般的とされている20年間のライフスパンにわたって、タービンの予見可能性や収益性をより高めて稼働させることができます。また、お客様は経済的なメリットだけでなく、日本のものづくりの重要な特徴である高いサービスレベル、細部への配慮、パートナーシップを重視するアプローチを評価しています。
卓越したエンジニアリング力の活用
その成果は数字として現れています。当社は2022年に世界市場でシェア1位を獲得し、2023年は大型ガスタービン(100MW以上)の新規受注において46%のシェアを獲得しました。2023年度にはGTCC事業は過去最高となる1.2兆円の受注高となり、また今年度第1四半期の受注高は既に5,000億円に達しています。
現在、世界の年間需要の約5分の1を占める米州が特に好調です。さらに、石炭や石油からガスへの移行を検討しているアジアや中東、加えて中国でも当社は強みを持っています。
ガスタービン以外にも、新興国を中心に安定したエネルギー供給に引き続き貢献するため、既存の石炭火力発電所を脱炭素化するアンモニア混焼技術の開発にも取り組んでいます。また、排ガスからCO₂を回収する際に前処理が必要な場合は、当社の窒素酸化物(NOx)や二酸化硫黄(SO₂)を除去する排煙処理システムが非常に重要な役割を果たします。さらに、従来の水電解装置よりも効率的にクリーンな水素を製造できる高温水蒸気電解(SOEC)などの水素製造技術の開発も進めています。
人類の活動において、脱炭素化が注目されるようになるとは、40年以上前にエンジニアとしてキャリアをスタートしたときには予想していませんでした。しかし、三菱重工を含む数多くの企業が新しい課題の解決に貢献しています。当社が、新技術の開発や革新的な製品の実用化に向けて必要な投資を行い、努力を続けていくことが、世界がネットゼロを達成するうえで必ず役に立つものと信じています。
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