三菱重工における成長戦略の設計

2021-04-29
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三菱重工グループの将来を担う成長の柱、それは「エナジートランジション」と「モビリティ・ロジスティクス分野等の新領域」です。私たちは2021年中期経営計画(2021事業計画)において、この2本柱を大規模な成長投資領域として策定。現在、私が室長を務める「成長推進室」が、この分野への投資と事業拡大を推進する役割を担っています。

ここから、順に説明していきます。

当社グループは2021年4月から始まる新たな中期経営計画の中で、二酸化炭素の排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現に向け、前計画の2倍以上にとなる約1,800億円の投資計画を策定しました。既存事業において蓄積してきたノウハウに新技術を融合させることで、収益力を再構築し、既存事業と新事業の両輪をグローバルに発展させていく狙いです。

例えば、エナジートランジション分野において当社グループは、世界最高効率のガスタービンや、二酸化炭素回収・利用・貯蔵(CCUS)装置の製造を実現。これらの技術を既存の発電事業に組み込むことで、二酸化炭素排出量の削減に成功しています。次に目指しているのは、生産・輸送・貯留を経て安定的な需要を生み出すバリューチェーンを構築し、水素(およびアンモニア等の水素輸送媒体)をはじめとするグリーン燃料の活用推進を図ること。さらに、大気から炭素を直接回収する(DAC)など、炭素排出量をマイナスへ転換する近未来的な技術にも着目していきたいと思います。

モビリティ・ロジスティクス分野においては、当社がこれまで製造してきた自動倉庫システム、フォークリフト、ビル用・トラック用冷凍ユニットなどをスマートソフトウェアによって有機的につなぎ、進化した「コールドチェーン」を構築していきます。食品や医薬品を低温管理しながら、工場から消費者へと商品を届けるコールドチェーンは、物流を飛躍的に進歩させます。さらに、当社グループの技術開発は交通インフラの領域にも及んでいます。シンガポールで構築したERP2(次世代型電子式道路課金システム)がその一例です。現在、多くの国ではガソリンに課税することで、道路の維持・改善に掛かる費用を賄っていますが、電気自動車の普及に伴い、新たな徴収方法が必要となっています。ERP2では、あらゆるタイプの車両の走行データを追跡・記録することで、走行距離に応じた課金を行うことが可能となります。

こうした総合的なソリューションを設計するには、デジタルから人工知能まで、あらゆる領域の専門技術が必要です。そのために、組織を横断したグループ内外の連携体制を強めるとともに、より多くの外部提携先と協力し、新規事業を立ち上げる必要があるでしょう。

三菱重工は今後も、B to Bを中心としたメーカーであり続けますが、一方で変えなければいけない文化もあります。従来の慣習にとらわれず、よりオープンな組織を目指し、積極的にリスクをとり、トライアルアンドエラーを厭わない企業へ。こうした変化を促進することが、成長推進室にとっての重要な役割でもあります。

三菱重工CSOの加口 仁氏
三菱重工CSOの加口 仁氏

私は、三菱重工で2人目のCSO(初代は泉澤清次社長)として、大きな目標があります。当社グループの収益力を高めたうえで、事業の成功を成長推進室が牽引していくことです。当社はグループ内に多くの優秀なエンジニア、スペシャリスト、ジェネラリストを抱えており、そこで生まれる新たなアイデアこそが、三菱重工グループの未来を支えていくと考えています。現在、当社グループの多くの製品ラインが成熟期を迎えています。その中で当社の未来を支えていくのは、これまでにない画期的なアイデア、新技術に他なりません。

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加口 仁

三菱重工 取締役常務執行役員 CSO兼ドメインCEO、エナジードメイン長

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