なぜ、世界中で今、コールドチェーンが必要とされるのか

2020-08-18
imageedit_20_3189722567.jpg

世界中で、コールドチェーン産業が急速に進歩しています。フードロスへの関心が高まり、食品安全管理の強化と透明性向上へのニーズが高まる中、コールドチェーンによる保管・配送が急成長しているのです。現在、温度管理されたサプライチェーンが急拡大し、生鮮食品・飲料・医薬品といった製品が、世界中の市場に届けられています。

コールドチェーン産業が活況を呈している大きな要因。それは、自由貿易の拡大、そして世界中に販売網を拡大するグローバル食品メーカーの発展にあります。あるマーケット調査によると、世界のコールドチェーン産業は2026年まで毎年17.9%ずつ成長し、市場規模は5850億ドル以上に達すると予測されています。この成長の大部分を占めるのは、アジア太平洋地域です。アジアやその他新興市場の人々の平均所得が上昇し、消費者がより高品質で新鮮な有機農産物を求めるようになった結果、コールドチェーンへの投資と機会が増大したのです。

こうした成長傾向に加え、新型コロナウイルスの世界的流行により、生鮮品を輸送する冷蔵トラックの需要が増加。将来的には、ワクチンを定温輸送する必要も生じるかもしれません。

急増するニーズに対して、いかに高いエネルギー効率で環境に優しいコールドチェーンシステムを実現するのか。その難題が今、サプライヤーや事業者の前に立ちはだかっています。

未知と対峙する流通業界

新型コロナウイルスの拡大は、多くの問題を浮き彫りにしました。外出自粛、パニック買いや外食産業の休業、さらにソーシャルディスタンスといったルールなど、さまざまな事象や取り組みが複雑に絡み合う中で、あらゆる規模のサプライチェーンが突然の需給変動への対応を迫られ、多くの事業者は未知の世界に挑むことを余儀なくされたのです。

パンデミックの際、英国の生鮮食品の売上高はパニック買いにより約30%増加。
パンデミックの際、英国の生鮮食品の売上高はパニック買いにより約30%増加。

こうした未だかつてない困難に直面する中でも、小売業界では、食品や飲料、医薬品、保護具などの需要が高まり、これまでにない新たな輸送ルートの模索や鮮度を維持した輸送の需要、加えて、食品の安全管理やサプライチェーンを含めた透明性などを求める声は消えず、冷蔵商品の流通を維持するために、コールドチェーンは必要不可欠でした。

コールドチェーンに高まる期待

このような緊急需要を超えたあとも、ワクチンの開発・流通において、冷蔵輸送は重要な役割を果たしていく可能性を秘めています。ワクチンの開発が進めば、何十億ものワクチンが大量製造され、迅速に世界中へ届けられる必要が生じるためです。

製造業者から医療施設や研究所へ輸送・保管される間、ワクチンは一定の温度に保たれなければなりません。過度の熱や凍結温度にさらされると、ワクチンの効果が失われ、廃棄しなければならない可能性が生じるためです。また、ワクチンの製造に使用される原材料においても、同じように温度管理をする必要があります。

ここで、コールドチェーンが重要な役割を果たします。三菱重工サーマルシステムズが製造するプラグインハイブリッドシステムなど、最新の輸送冷凍機は、駐車中やアイドリング状態での停車中も荷室の温度を一定に保つことができます。また、プラグイン充電・走行充電・バッテリー運転の切り替えを自動で切り替えることで、ドライバーの意識に頼ることなく必要な温度を維持することが出来、配送ドライバーの作業負担軽減に加え、CO2削減能力と省エネ性を大幅に向上させることが可能です。

これは、24時間稼働が求められる輸送冷凍機にとって重要なポイントです。また、食品廃棄物も削減するため、食品を製造する際に使用するエネルギーを節約し、CO2 削減に貢献します。

現在、多くの最新のコールドチェーン機器が国連のATP協定に準拠し、生鮮食品の国際輸送における安全性向上、より効果的な流通の実現を目指しています。

医薬品輸送においては、ATP協定のような統一システムはまだ存在しませんが、品質・安全性を維持するために、コールドチェーンのサプライヤーおよび事業者は適正な流通基準(Good Distribution Practice Guidelines)を遵守することが求められています。

供給網を、世界の隅々へ

安定したエネルギーインフラ・電力供給システムを持つ先進国においてすら、温度感受性ワクチンの流通・貯蔵に関する課題が残る中、新興国地域などではさらに大きな問題が発生しています。

ワクチンは一定の温度で配送され、保存される必要があります。
ワクチンは一定の温度で配送され、保存される必要があります。

新興国でも道路のインフラ整備が済んでいない地域などは、そもそもアクセス困難であることに加え、ワクチンの保存に必要となる電力を充分に確保できない可能性も考えられます。

今後、太陽光発電によるコールドチェーン機器やワクチン用冷蔵庫の開発が進めば、送電線網を利用できない地域でもワクチンを保管できるようになります。しかし、一部の地域では、コールドチェーンシステムが不十分であり、場合によっては存在しないこともあります。現在、Gaviなどの国際機関はこの問題に対処するために、新興国におけるコールドチェーンシステムの強化に取り組んでいます。

都市部だけでなく、これからインフラ整備を行う地域に至るまで、効率的で透明性が高く、信頼の置けるコールドチェーンによる流通の実現、さらに食糧の長期保管を可能とすることは、これまでになく重要となってきています。コールドチェーンは生活必需物資の供給を維持するだけではなく、輸送時における食糧の安全性確保や廃棄物削減にも貢献し、さらには、医薬品を安全に供給するためにも欠かすことができないのです。

ジョニー・ウッド

ジョニー・ウッド

ジャーナリストとして、15年以上にわたりアジア、ヨーロッパ、中東の世界各地で活動。多くの特集記事執筆のほか、数々の一流ライフスタイル誌や企業出版物を編集。