エナジートランジションを支える強固な財務基盤

2021-07-29
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脱炭素社会の実現に向けたエナジートランジション(低環境負荷エネルギーへの転換)は世界を席巻し、発電の方法や電力消費の方法のみならず、世の中のあらゆる産業において変革が求められることとなるでしょう。三菱重工は、この地球温暖化との闘いにおけるソリューション提供で中心的役割を果たすべき企業であり、それは我々にとって長期間にわたる成長のチャンスでもあります。しかし、顧客をサポートし続けていくためにも、将来の成長機会を逃さないためにも、その前提として強固な財務基盤の確保と的確な財務施策の遂行が求められます。

中期経営計画 (2021~2023年度) においては、成長事業への投資を、以前の3年間(2018~2020年度)の800億円から1,800億円へ大幅に増加させる計画としています。我々はまだCOVID-19からの回復途上にありますが、エナジーのみならず、モビリティ-物流-電化など、成長分野への投資を推進していきます。また、有利子負債を増加させることなく、D/Eレシオを改善しながら、1株当たりの配当を現在(2020年度)の2倍以上の過去最高水準とする目標を掲げています。

目標達成に向けた具体策とは

これら全ての目標を達成することは、容易ではありません。目標達成のためには、2023年までに営業キャッシュフローを大幅に増加させる必要があります。その大部分は、COVID-19が収束し、エアロストラクチャー事業やプラント-インフラ関連など、既存事業の収益性が回復することによって、実現すると考えています。また、リージョナルジェット事業への投資は、2021~2023年度の中期経営計画では200億円と、以前の3年間(2018~2020年度)から大幅に抑制する計画としています。

計画実現に向けては、景気回復のみを頼りにしているわけではありません。アセットマネジメントは重要施策の一つであり、長崎造船所の一部資産など低稼働資産の売却により、資金獲得を進めていきます。また、事業ポートフォリオの組み替えは当社戦略の一端を担い、工作機械事業の日本電産への売却三井E&S造船からの艦艇事業買収などにより、収益力強化を推進していきます。事業ごとに 「ベストオーナー」 を見つけることは、自社の事業ポートフォリオ最適化及び収益最大化だけでなく、社会全体に利益をもたらすと考えています。

加えて、コストの削減にも力を入れて取り組んでいきます。2023年までに、販売費および一般管理費(SG&A)を20%削減することを目標としており、コンピューター-システムの統合や内部プロセスの簡素化により業務効率の改善を図っていきます。

これらの施策により、2023年度には事業利益率 7%、ROE 12%という目標を達成できるものと確信しています。一方、次の中期経営計画(2024年度以降)の期間で、ビジネスチャンスを最大限に活用するためには新たな強みが必要です。これは例えば、あらゆる事業領域における人工知能やシステム統合に関するスキルが挙げられます。当該技術が急速に進化していることを考えると、社内または大学との共同研究などを通じて専門スキルを手に入れることも可能だと思いますが、M&Aも有効な手段となってくるでしょう。必要な時にいつでもM&Aに踏み切れるように、強い財務基盤を構築しておくことが重要だと考えています。

取締役常務執行役員兼CFOの小澤 壽人
取締役常務執行役員兼CFOの小澤 壽人

カーボンニュートラルの実現に向けて

しかしながら、事業戦略や財務戦略を立てるだけでは十分とは言えません。株主、潜在投資家、銀行、格付機関、アナリスト、メディアに対して、その戦略を明確にお伝えする必要があります。昨今、ステークホルダーの皆様は、当社のESG(環境-社会-企業統治)に関する方針にも関心を寄せています。残念ながら、カーボンニュートラルを実現するための特効薬はありません。三菱重工グループは、持続可能で現実的なソリューションを提供し、産業界や各国がネットゼロを達成できるように支援していきます。CFOとしての私の役割は、これらの問題全てを検討するとともに、CEOと取締役会による戦略決定をサポートすることです。さらに、それらを社内外の皆様にお伝えすることも重要な仕事と考えています。

他社のCFO同様、私の取組みの基礎となるのは、バランスシートの改善により、不測の危機が発生した場合に備えて「安全なクッション=十分な財務余力」をつねに確保しておくことです。それらの強固な財務基盤があるからこそ、世界の激しい変化を成長のチャンスとして最大限に活かすことができるのだと、私は確信しています。

小澤 壽人

小澤 壽人

三菱重工業株式会社 取締役常務執行役員兼CFO