アジア太平洋地域の脱炭素化:クリーンで安定した電力の実現に向けた3つの道

2022-07-01
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アジア太平洋は広大で世界のどこよりも多様性に富んだ地域です。地域内の各国は、炭素排出量の多い燃料からの脱却を望んでいますが、経済成長や人口増の課題に対処するにあたり、電力を競争力のある価格に維持することが必要です。アジアの指導者たちは、CO2排出量を削減しながら、電力の安定供給と経済性を両立させるための投資を慎重に検討しなければなりません。

明らかに矛盾するこの2つの目標を両立させることは不可能に思われるかもしれません。しかし、地理的-政治的-経済的状況に関係なく、各国が追求すべき以下の3つの道があります。

  1. 再生可能エネルギーへ対応するための、既存発電システムの負荷変動への対応力向上
  2. 既存発電システムの脱炭素化
  3. 低-脱炭素エネルギーソリューションの導入促進

東南アジアの電力の約80%が化石燃料由来であり、石炭だけで40%以上を占めているのは厳然たる事実です。したがって、最優先課題は再生可能エネルギーの割合を高めること。地域全体の日照量と風量、およびインドネシア、フィリピン、オーストラリアなどにある長い海岸線や遊休地を考えると、その実現性は非常に高いと言えます。

対応力向上と既存インフラの活用がポイント

第1の道は、既存発電システムの負荷変動への対応力を向上させることです。既存の石炭-ガス火力発電所のシステムを、風力-太陽光発電で度々問題となるその間欠性(気候によって発電量に差が出る性質)に対応できるように改造することが必要です。既存の発電設備について、ベースロード運転とアンシラリー運転(需給調整運転)の両方に対応するために、電力立ち上げ時と負荷変動時の追従性を向上させることにより、電気事業者と独立系発電事業者は、再生可能エネルギーの導入拡大と系統の安定化を図りながら、安定した電力供給を維持することが可能になります。

三菱重工グループは、既存の火力発電所に必要なハードとソフトの改修を数カ月で、しかも新設に比べて低コストで行うことができます。当社のTOMONIソリューションのようなデジタル技術を導入すれば、発電所全体に設置した何千ものセンサから収集されたデータを瞬時に分析し、発電所のパフォーマンス向上に活かしたり、発電機器の問題を早期に検出し、運転停止による損失を回避することができます。

一方、電力網への接続が不可能であったり、経済的に非現実的な島嶼部や個々の工場に分散型電力を供給する場合は、当社のトリプルハイブリッド自立給電システム「EBLOX」固体酸化物形燃料電池(SOFC)システムのような、より小型の発電装置が利用可能です。

第2の道は、既存インフラの環境負荷を低減することです。一般的に、石炭からガスへの燃料転換は大きな効果が得られます。当社の最新鋭ガスタービンを採用した発電所は、従来の石炭火力発電所に比べて発電効率が約20%向上し、CO2排出量を約65%削減。水素やアンモニアなどのクリーン燃料を混合することで、さらなる削減が可能です。当社は、既存のガスタービン機種で30%の水素混焼が可能なことを確認しており、今後2025年までに100%水素での燃焼達成を目指しています。

インドネシアやベトナムなどのアジア太平洋地域の国々では、電力需要増に対応するために、今も石炭火力発電所が新設されていますが、石炭からガスへの燃料転換により、環境負荷を大きく低減することが可能となります。天然ガスもCO2を全く排出しない燃料ではありません。しかし、アジアで約3,800億ドルの天然ガスインフラ-プロジェクトが開発されていることからも明らかなように、今後数年にわたって、天然ガスは重要な代替燃料となるでしょう。これが現実です。

カーボンニュートラルに向けた水素、アンモニア、CO2回収の拡大

ゼロエミッションを達成するためのソリューションの1つである炭素回収によってCO2排出量を軽減することも可能です。課題は経済性。欧米ではCO2回収-活用-貯留(CCUS)システムへの関心が高まっています。当社グループは、現在CO2回収技術で世界をリードしており、今後CCUS全体へのビジネス領域拡大を検討しています。一方、アジアでCCUSが広く採用されるためには、各地域-国における規則や規制の整備とともに、炭素価格の上昇が大きな後押しとなります。

第3の道は、クリーン燃料を段階的にエネルギーミックスに加えて、それらを電力システムに統合し、産業、運輸、建設の脱炭素化に利用することです。アジアには多くの水力発電所があり、太陽光や風力だけでなく、豊富な地熱やバイオマスエネルギー源を有する国もあります。

どのタイプの低炭素エネルギーを優先するかは、その国の地理的特性に依存しますが、水素などのクリーン燃料に対する実現可能なサプライチェーンを構築する能力も重要になります。豊富な太陽光-風力、広大な土地を有するオーストラリアは、水素の輸出国になることができるでしょう。一方でシンガポールは、先進的なアプローチや豊富な財源を用いることで、自国を水素ハブに変えつつ、隣国インドネシアからの再生可能エネルギーの輸入による脱炭素化を目指しています

エナジートランジションは最も複雑な「エンジニアリングプロジェクト」

私はキャリアの初期に、三菱重工初となる、大型ガスタービン-コンバインドサイクル発電所のインドへの輸出案件を担当していました。その時に学んだのは、大規模で複雑なエンジニアリングプロジェクトでは、技術的な障害の克服だけでなく、最適な意思決定プロセスやファイナンススキームの導入も重要になるということでした。エナジートランジションは、おそらく、これまで世界が直面した最も複雑な「エンジニアリングプロジェクト」ですが、その勢いは加速しており、アジア太平洋地域と全世界で、よりクリーンで安全な未来をともに創り上げることができると確信しています。

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大野 修

三菱重工執行役員\nアジア・パシフィック総代表兼インド総代表兼Mitsubishi Heavy Industries Asia Pacific Pte. Ltd.社長

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