COP26を終えて:目標に近づくための確かな歩み

2021-12-21
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先日、英国グラスゴーで開催されたCOP26気候変動サミット。今回は2015年のパリ会議のような大きな政治的な合意こそありませんでしたが、各産業分野・企業における大きな前進を見ることができました。

私自身も、三菱重工グループ代表団のリーダーとして今回の会議に参加し、さまざまな部門の役員や関係者の皆さまとお話しする中で、「脱炭素化の緊急性を理解し、現実的な目標を設定する。そして、その目標達成に向けて確実に動いていく。」そんな強い意志を、多くの方から感じ取ることができました。こうした点から、グラスゴー会議は成功だったのではと評価しています。さて、ここからは今回の会議について、私なりの視点で振り返っていきたいと思います。

既存技術に焦点をあてた、着実な見通し

今回の会議がこれまでと大きく違ったポイントとして、「既存技術にフォーカスしたこと」が挙げられると思います。世界を救うために、将来の画期的な新技術をあてにするのではなく、今ある既存技術を最大限に活用する策を考える。特に、炭素回収水素活用の既存技術に注目が集まっており、「地球の気温上昇を、産業革命前と比べて2℃未満、可能ならば1.5℃未満に抑える」というCOP26の目標達成に向けて、これら2つの技術をどのようにして大規模に活用していくのか、その方法に大きな関心が寄せられました。具体的には、CO2の回収、あるいは水素の製造から、それぞれの輸送、貯蔵、最終消費に至るまでのエンド・ツー・エンドのバリューチェーンを構築するために、必要な投資や克服すべき課題について議論がなされました。

こうした議論の中でさらに評価すべきは、建設的な話し合いができたことです。今回の会議では、これらの既存技術に対して、化石燃料への依存を長引かせるため、「非生産的」だ、あるいは「悪」だ、などという意見はほとんど聞かれませんでした。また、発展途上国の経済成長を阻害しない水準で進めるためには、まだまだ天然ガスなどの繋ぎとなる燃料に依存する必要があるという点についても率直な議論が行われました。

今回のように実用的な検討がなされると、企業や産業分野、および彼らに資金を提供する人々にとって今後の見通しが立ちやすくなります。必要な規模でのエナジートランジションの計画、あるいはそれらへの投資の励みにもなると思います。そして実際、産業レベルではすでに数々の進展が見られています。その中には、私たち三菱重工グループが力になれる分野もあります。既存インフラの脱炭素化、炭素回収、水素活用の各分野では、技術提供者として貢献できる点が多くあるでしょう。例えば、当社の水素混焼ガスタービンの先駆モデルはすでに販売されており、CCUS技術では約70%のシェアを占め、世界市場をリードしています。さらに、オーストラリアのグリーン水素生産に必要な水素エコシステムや、グリーン水素をアンモニアの形で輸送するための船舶、加えて、米国の岩塩空洞などへのグリーン水素の貯蔵プロジェクトなど、各分野への投資も積極的に行なっています。今後も技術提供と投資の両面から、既存技術の活用を推し進めていければと思います。

三菱重工の細見 健太郎は炭素エコシステムの構築に関する会議を主催
三菱重工の細見 健太郎は炭素エコシステムの構築に関する会議を主催

CCUSや水素活用における日本の役割

このように炭素回収や水素活用に関心が集まる中、COP26のジャパン・パビリオンに展示された水素燃焼タービンやCCUS装置の模型には、多くの来場者が集まりました。ハードウェアの模型が展示されている唯一のパビリオンとして、開催期間中、トップレベルの人気を誇っていたようです。ここにも、政治的発言よりも実用的な議論を望む代表団の意志が表れていたのかもしれません。

一方、CO2排出量の多いさまざまな産業と発電所が集まっているエリアにおける脱炭素化を効率的に進める方法として、産業クラスターの形成に注目が集まっていたことも特筆すべきでしょう。三菱重工グループでも、パートナーであるDrax社やTriton Power社とともに、英国のイーストコースト・クラスターの計画に参画しています。この産業クラスターは、タイミング良く会議の数日前に英国政府からの支援が決定したもので、三菱重工グループのCCUSをテーマとしたパネルディスカッションでも大きな話題となりました。

そして、水素に関しては、初期段階ではEUが主要な市場となるものの、将来的にはその他の国々でも活用が進められると考えています。例えば、再生可能エネルギーの理想的な条件を備えた中東や北アフリカ、炭素貯蔵の候補地を持つノルウェーや英国といったEUの周辺地域です。これらの国々では、費用対効果の高いブルー水素やグリーン水素の製造が活発になるだろうと私は考えています。実際、グラスゴーでも、それらの国々は水素活用に関する意欲的な発表を行なっていました。私たち三菱重工グループは、それらの国々の生産、貯蔵、輸出を技術的に支援することで、取り組みを後押ししていければと考えています。

COP26の会場となった英国グラスゴーのクライド川周辺
COP26の会場となった英国グラスゴーのクライド川周辺

カーボンニュートラルの実現に向けて歩み続ける世界

グラスゴーの会議に出席したことで、その他にも学びがありました。それは、エナジートランジションを包括的かつ公平なものにすることの必要性を訴える、「ジャストトランジション(=公正な移行)」という新しい表現に出会ったことです。この言葉は、発展途上国の代表団だけでなく、近年のエネルギー価格高騰で国民が大きな打撃を受けた欧州諸国の代表団の間でも使われていました。

私たちがここから得るべき教訓とは、「企業、産業分野、政府が協力して気候変動と闘う中で、その解決策はクリーンなだけでなく、必ず、すべての人にとって信頼できるものであり、かつ、手頃なものでなければならない」ということです。

この先、世界は様々な困難に立ち向かうことになると思います。そんな中でも、私たち三菱重工グループが歩みを止めることはありません。カーボンニュートラルな世界の実現に向けて、COP26に続き、2022年初頭にはダボス会議、そしてエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されるCOP27と、今後も世界的な議論は続いていきます。今回のように、地に足のついた前向きな対話が継続されることを私たちは願うばかりです。

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細見健太郎

三菱重工 常務執行役員兼欧州・中東・アフリカ総代表

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