CCUS、輸送、流通:総合的な炭素市場の創出
2050年までに、CO2排出量のネットゼロを実現する。世界がこの目標を達成するためには、大気中に排出されている年間400億トンものCO2を削減する必要があります。その方法として、再生可能エネルギーや他のカーボンフリーなエネルギー源の活用も進められていますが、それだけでは目標を達成することは難しいでしょう。カーボンニュートラル実現のためには、CO2排出量低減のほかに、年間43~130億トンのCO2を何らかの方法で除去する必要があるのです。カーボンニュートラル実現の鍵となる、CO2を回収し利用あるいは貯留する技術(CCUS:Carbon Capture, Utilization and Storage)について、詳しく見ていきましょう。
CCUSの要点と、普及に対する課題
CO2の排出を低減したり除去することを可能にするテクノロジーは、2つしかありません。1つ目はCCUSで、国際エネルギー機関(IEA)がエナジートランジションの重要な柱としています。このプロセスでは、これまでCO2排出量削減が難しいとされていた産業プラントや、発電所からの排ガスに含まれるCO2の90%以上を回収し、地下に貯蔵したり、産業利用したりすることができます。しかし、こうした多くの利点があるにもかかわらず、商業規模で運転しているCCUS施設は、全世界でわずか26ヶ所(このうち14ヶ所(実証1カ所含む)は三菱重工グループが設置)です。現状では、年間で4,000万トンのCO2が回収されています。
普及が進まない大きな課題は、IEAの認識の通り、コストです。三菱重工グループはCO2回収における市場シェア70%を占めるグローバルリーダーとして、より安価な技術や規模の経済の適用、LNG製造などより多くの産業への技術適用を通じて、CCUSにおけるCO2の1トンあたりの平均コストを50~70ドルから30ドルに引き下げるために懸命に取り組んでいます。こうした取り組みが功を奏し、現在、約40にのぼる新規CCUSプロジェクトが進行中です。そこには、900万トンものCO2を回収する、英国のDrax発電所における世界最大のプロジェクトも含まれています。しかし、最終的には世界中で現在の200倍ものCO2を回収しなければなりません。それには、米国の45Q税額控除のような政府補助金制度や、世界的に確立させるカーボンプライス、そして最終的には、クリーン技術で生産された製品に対して「グリーン・プレミアム」を支払う消費者の意欲も必要となるでしょう。
DACに秘められた可能性
もう1つのテクノロジーは、DAC(Direct Air Captureの略。CO2を直接空気から回収する方法)です。このテクノロジーは、これから数十年の間に必要性はさらに増すことでしょう。なぜなら、既存の産業やエネルギーインフラから仮にCO2をすべて回収できたとしても、カーボンニュートラル実現にはまだ十分な量ではないからです。しかし、技術的にDACはまだ成熟していません。私たち三菱重工グループもこの取り組みに力を入れていますが、現状の1トン当たりのCO2回収に最低150~200ドルかかるというコストはDACの導入には大きな障壁となるため、更なる改善が必要と言えるでしょう。
一方、回収だけではなく、回収されたCO2をどのようにするかを考えることも重要です。幸いなことに世界中で、回収されたCO2を使用してエレクトロフューエルやセメントを製造するなどの転換利用の産業用途が増えてきており、それらの価値はますます高まります。また、枯渇した油田や海底の帯水層などをはじめとした、大規模なCO2貯留場所も存在しています。しかし、CO2の利用や貯蔵を行うためにはCO2を回収した場所から、利用や貯留ができる場所まで運ぶためのパイプライン、船舶、トラック、鉄道などのネットワークと共に、それらに支払う追加費用がかかることとなります。
単なる機器サプライヤーではなく、バリューチェーンを構築
こうしたCCUSバリューチェーンにおけるあらゆる側面に、三菱重工グループは積極的に関与していきます。具体的には、CCUS装置以外にもコンプレッサーやポンプを供給し、長距離を低コストで大量に輸送できる液化CO2(LCO2)輸送船の開発を検討しています。しかし、当社グループは、機器サプライヤー以上の存在になりたいと思っています。そのために、物理的なCCUSネットワークの構築と同時に、CO2NNEX(コネックス)と呼ばれるサイバーCCUSネットワークの構築を、IBMと協力して進めています。そして、最終的な目標として、当社グループがCO2NNEXにおいてCO2の買い手や売り手を集めることで新たなCO2流通エコシステムを創出することです。CO2流通エコシステムとは、例えば「CaaS」(CO2 as a Service:サービスとしてのCO2)として、回収されたCO2を電力会社が販売したり、石油会社がより安い貯留場所を提供したり、回収したCO2を購入してカーボンブラックを製造し、それを産業ユーザーが購入するといった、CCUSバリューチェーンにおけるCO2の流通事業のことです。
こうした構想を描くのは、当社グループに限られた話ではなく、今後5年から10年の間に、世界のCO2流通市場が発展することは確実だと考えています。計画を推進するために、パートナーが必要になります。デジタル分野ではIBMと協力関係にあり、適切なバックグラウンドを持つ人材を見つけることができるでしょう。CO2の回収・利用(CCU)に関心のある日本と、CO2の回収・貯留(CCS)に多額の投資を始めている英国は、CO2NNEXにとって有望な参入市場です。
CCUSビジネスは当社グループの中心となりうる、重要な柱の一つです。これを創造的に進化させることで、当社だけではなく世界の未来を支えていくものとなるでしょう。
SPECTRA記事「エナジートランジションを支える強固な財務基盤」はこちらから