ターボ冷凍機の世紀:冷却技術におけるイノベーション
ターボ冷凍機というと、空調や冷蔵などの用途を思い描きがちですが、それらは氷山の一角にすぎません。ターボ冷凍機はこの100年以上の間、実に多くの用途に利用されてきました。例えば食品貯蔵や半導体、あるいはスケートリンクの冷却などがそうであり、その技術は世界中の産業やライフスタイルを変えてきました。
本記事では、まずターボ冷凍機の簡単な歴史と産業における役割を紹介した後、効率と信頼性を高めながらCO2排出量を削減する方法について説明していきます。
古(いにしえ)からのテーマ—涼しさを求める
古代ローマの遺跡は、当時の人々がいかに暑さへの対策を講じていたのかを今に伝えています。裕福な市民の中には、家の壁に冷たい水を循環させる人もいたとのことです。
2000年前のエジプト人はエアシャフトの設計により、空気を流入させ室内を冷却しました。また古代ペルシャでは、地下水脈(カナート)と風受け(バードギール)を組み合わせた、現在もこの地で使われる冷却装置が生み出されました。
レオナルド・ダ・ヴィンチも、仕えていたパトロンのために水力扇風機を設計し、寝室の室温調整を試みました。
しかし、空間を冷却する概念を再構築し、それを自動的に行えるようにするには、電気という革新的な技術の出現を待つ必要がありました。そして、米国のキャンディストアに初めてターボ冷凍機が登場したのは1923年のことでした。
この技術は、フロンガスなどの冷媒を用いて冷水を製造するものであり、冷却の過程において、冷媒ガスを圧縮するために回転力を利用します。
デパートや映画館では、快適な空間で人々が買い物をしたりくつろいだりできるようにするために、ターボ冷凍機がすぐに採用されました。ターボ冷凍機はニューヨークの超高層ビルやブラジルの金鉱山などでも採用され、多くの業界で人気を博した結果、1929年までに世界中に輸出されるようになりました。
温室効果ガスの削減は必要不可欠
ターボ冷凍機は、食品の寿命を延ばして私たちの健康を増進し、発電所や産業設備を冷却して経済活動を支える、現代社会には欠かせない技術です。
ターボ冷凍機はまた、半導体や化学製品、医薬品、自動車部品の製造に必要な温度・湿度管理を24時間行い、データセンターや美術品が必要とする安定した環境を実現します
一方、冷却に使われるエネルギーの消費量は1990年から現在までに3倍以上になっています。地球温暖化はとどまるところを知らず、これからは冷却に対するニーズをより持続可能なものに変えていかなくてはなりません。
国際エネルギー機関(IEA)によると、冷却装置の性能は向上しており、使用する電力量はより持続可能なものになりつつあります。しかし冷却するために発生する間接的なCO2排出量は増加しており、IEAロードマップ(net zero scenario)に従うためには、現在のレベルから約40%削減する必要があります。
再生可能エネルギーへの投資を増やし、その技術を積極的に利用することは重要です。しかしこれらの実践と同様に、政策や規制の面からのアプローチも不可欠です。また生産現場でのイノベーションの必要性も忘れてはなりません。
冷却のための最新技術
環境にやさしいターボ冷凍機の需要は高まっています。製造メーカーは効率を上げることや地球温暖化係数(GWP)の低い冷媒を使用することに重点を置いています。
拡がりを見せる低GWP冷媒の使用に応えるため、ターボ冷凍機のトップメーカーである三菱重工サーマルシステムズは、冷媒特性にあわせて、気体流量を増加させた新しいタイプのコンプレッサを開発しました。その結果、効率を損なうことなく、コンプレッサの吸気流量を60%増加させることに成功しました。
ターボ冷凍機の能力は、キャンディストア1軒を冷房するだけではなく、今では地域全体の冷房をまかなえる水準へと進化しています。
地域冷房は、複数の建物を冷やす設備を一箇所に集め、地域導管を介して冷水を送ることで、効率と信頼性を向上させています。1台に2つの圧縮機を搭載した大型で高効率のターボ冷凍機を使用したり、料金の安いオフピーク時の電力を利用できる運転モードを採用したりしていることも、その理由として挙げられます。
三菱重工グループはサウジアラビアのメディナで進む160万平方メートルの都市開発プロジェクトに、2015年から大型ターボ冷凍機80台を納入しました。冷房能力は合計で20万冷凍トンになります。
また当社グループはビジネスや観光の中心地であるシンガポールのマリーナベイに、低GWP冷媒を使用したターボ冷凍機を供給し、持続可能なライブワークプレイ地区(住みやすく、働きやすく、楽しみやすい地区)作りに一役買っています。マリーナベイが観光やビジネスで生み出す価値を考えると、信頼性は不可欠です。当社グループが納めたターボ冷凍機を使った地域冷房設備は、これまでに一度も冷水供給を止めることがなく、冷房に対する需要に応え続けています。
またターボ冷凍機をデータセンターに設置する場合、当社のデジタルイノベーションブランドであるΣSynX(シグマシンクス)を活用して自動化とAIを統合すれば、効率と生産性を同時に最適化することが可能になります。
よりクリーンで効率的な未来に向けて
CO2排出量をネットゼロにするという目標を達成するためには、材料、制御システムおよび可変速技術をさらに進歩させる必要があります。
ターボ冷凍機は現代社会に広く普及しているにもかかわらず、人目に触れず、意識される機会は決して多くありません。1世紀以上にわたり、ターボ冷凍機は室内環境を静かに変え続け、今ではボタン1つで、空調管理ができるようになりました。
これからもターボ冷凍機は、様々な用途で使用されるでしょう。そして、将来の世代にわたって、涼しく快適な環境をよりCO2排出が少ない方法で提供するために、今後もイノベーションが進んでいくでしょう。
SPECTRA記事 「シンガポールの地下に広がる、冷房の未来」はこちら