シンガポールの地下に広がる、冷房の未来

2020-07-28
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今や、私たちの社会にエアコンは欠かせません。しかし、これまで、空調設備による環境負荷という側面については、あまり考えられていませんでした。

世界銀行の調査によると、従来型の冷却機器による温室効果ガスは、世界の総排出量の10%を占めています。このまま放置すれば2030年までに更に倍増すると予測され、長期的にはより深刻な問題も潜んでいます。今の世界なら「異常」とみなされるような気温が、30年以内には「普通」となる可能性もあるのです。そうなれば、北欧のようにこれまで空調とは無縁だった地域も、冷房に頼ることとなり、世界の冷房需要がますます増加すると考えられます。

国際エネルギー機関(IEA)は、今後の冷房需要増の大部分は新興経済国、特に東南アジアで発生すると予測しています。現在、この地域でエアコンを使用しているのは人口の15%ほどですが、今後20年間で販売台数は爆発的に増えると見込まれています。

こうした地域においては、持続可能な冷房システムを構築することが重要な課題と考えられてきました。そして今、一部の都市では、その答えにたどり着こうとしています。それが、「地域冷房」という仕組みです。

地域冷房気候変動対策における秘密兵器

世界で最も気温・湿度ともに高い国の一つであるシンガポールでは、一年中、空調設備に大きく依存しています。多くのオフィスビルや住宅で冷房機器が使われており、世界の他の地域に比べ2倍ものスピードで気温の上昇が進んでいます。

そうした中、国連が気候変動との戦いにおける「秘密兵器」と呼ぶのが、地域冷房です。持続可能な大規模冷房を実現する仕組みとして、活用が進んでいます。

シンガポールの金融街マリーナベイにあるオフィスや店舗、ホテル、レストランは、世界最大の地下型地域冷房システムによって冷房されています。

このシステムは、各建物の冷房に必要となる冷水を、地下の中央プラント1カ所から、地域全体に供給するものです。冷水は、5kmに及んで張り巡らされた導管を通り、そして各建物の熱交換器へと流れ、建物を冷却した後、熱を吸収し、中央プラントへ戻っていきます。

地域冷房システムの心臓ターボ冷凍機

この地域冷房システムの中枢を担うのが、三菱重工グループ製のターボ冷凍機です。冷媒を液体から気体に変化させるときの蒸発潜熱で水を冷やします。気体の冷媒を再び液体に戻して循環させることで、連続的に冷水を冷却し続けることができる機械です。この冷水が各建物へ送られ冷房用の冷水として使用されます。この仕組み自体は従来と同じですが、特徴はそのスケールにあります。

最も大きな冷凍機は、長さ約12メートル、高さおよび幅約6メートル、重さ160トン以上。家庭用エアコン約3,600台分の冷房能力を有します。高効率コンプレッサー設計を採用し、機械的エネルギー損失を最小限に抑える空力形状を実現しました。

この大容量の冷凍機は、消費電力の6倍の熱エネルギーを生成でき、家庭用エアコンよりもはるかに効率的なスケールメリットを生み出しています。

マリーナベイの地域冷房システムでは、このターボ冷凍機を16台使用しています。中には氷蓄熱モードを備えたものもあり、電力コストが下がる夜間などのオフピーク時に、巨大なタンクに氷を蓄え、昼間にその氷を利用して冷房をすることも可能です。

このように、需要に応じて稼働させることで、マリーナベイシステムのエネルギー効率・コスト効率はさらに向上しているのです。

環境負荷が低く優れたコスト・パフォーマンス

地域冷房システムは、費用対効果の面でも優れています。各建物で個別の冷房システムを動かすよりも、地域でまとめたほうがコストは下がるためです。マリーナベイでは、冷房に使用されるエネルギーが40%削減されると推定されています。シンガポールの一般的なアパート24,000室分に相当するエネルギーを削減できるのです。

また、建物ごとにターボ冷凍機や冷却塔を必要とせず、保守費用が地域全体で共有されるため、設備コストも下がります。さらに、地下空間を有効活用することで、人口密度の高い都市において貴重な屋根スペースを開放できるという副次的なメリットもあります。

さらに、三菱重工グループのターボ冷凍機は、オゾン層を破壊する性質を持たず、地球温暖化係数(GWP)の低い冷媒を採用したシリーズもラインアップしています。地球温暖化は、地球表面温度の上昇によって起こりますが、表面温度の上昇に大きく関与するのは、人間の活動によって排出される温室効果ガスであると考えられています。GWPの数値が大きければ大きいほど、より熱を吸収する力が強く温室効果が高まるとされており、空調設備で必ず使用される冷媒は出来る限りGWPの数字が小さいものを使用することが、環境負荷の低減につながります。三菱重工グループは、2015年に国内メーカーでは初めてGWPの低い冷媒を採用したターボ冷凍機を市場投入するなど、環境保全に貢献する技術・製品開発をしてきています。

社会経済・環境に関する課題の解決に向け、地域冷房の秘めた大きな可能性は、世界中の都市から注目を集めています。

どれだけ暑い気候でも、涼しく快適に過ごしたい。ただし、環境は守りたい。世界中の人々のそんな願いは、地域冷房が世界へ広まっていくことで、きっと持続可能な形で実現することでしょう。

マリーナベイエリアの地域冷房システム高度な要求に技術でお応えするターボ冷凍機の精鋭たち

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John McKenna

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