宇宙探査の新時代を切り拓く技術

2024-04-18
The technologies ushering in a new era of space exploration

宇宙探査はイノベーションによってのみ実現が可能です。アメリカ航空宇宙局(NASA)によるアポロ計画の下、人類が初めて月面に降り立ってから半世紀以上が経過しました。その間、宇宙産業は様々な技術革新により、宇宙に対する理解が深まり、宇宙探査は前進し続けてきました。今後、人類は、地球に近い低軌道における活動から、地球からより離れた月面有人探査の実現を目指します。私たちは、再び人類による月面探査という宇宙大航海時代の到来を迎えようとしています。

ここでは、月面探査に向けた5つの主要なプロジェクトを紹介します。

1.月周回軌道での生活

NASAが主導するアルテミス計画は、月面における人類の持続的活動を構築し、将来の火星や深宇宙へのミッションの足掛かりとすることを目指しています。アルテミス計画には、米国、欧州、カナダ、日本などの宇宙機関が協力しています。この先駆的な計画には、月への探査ミッションの中継地点となる月軌道上に「ゲートウェイ」と呼ばれる有人宇宙ステーションを建設することが含まれています。

既にアルテミス計画では、NASAによる大型ロケットSpace Launch System(SLS)に搭載された無人の宇宙船Orionが、月周回軌道への到達に成功しています。今後は、1972年のアポロ17号以来となる有人の月周回試験飛行や月面探査、探査の拠点となる月周回軌道上の有人宇宙ステーション「ゲートウェイ」の組み立てを目指しています。

2.深宇宙での生命維持

三菱重工は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のもと、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」物資補給機「こうのとり」で培われた技術と実績を活用し、月周回軌道上の有人宇宙ステーション「ゲートウェイ」を構成する国際居住棟(I-HAB)用の環境制御・生命維持技術(ECLSS)の開発に携わっています。ECLSSは、空気の供給やCO2・有害ガスの除去などを行い、閉ざされた居住空間で人類が生活できる環境を作り出すシステムで、月面探査や火星、更に遠い深宇宙ミッションでの人類の活動に欠かせない技術です。

多くの段階的な宇宙のイノベーションにより更なる月探査が可能に

多くの段階的な宇宙のイノベーションにより更なる月探査が可能に

3.宇宙補給機

有人の宇宙探査には、宇宙ステーションに滞在するクルーに水・食料や実験装置などを供給する物資補給機が必要不可欠です。三菱重工は、現在運用される国際宇宙ステーション(ISS)への物資補給ミッションに成功した「こうのとり」の開発と全9機の運用に参画し、後継機「HTV-X」を開発中です。また、こうした技術の蓄積を生かし、月周回軌道の「ゲートウェイ」への物資輸送についても検討を始めています。

4.月面着陸プロジェクトの成功

2023年以降、無人の月面着陸ミッションで歴史的な成功が相次いでいます。2023年8月、インド宇宙研究機関(ISRO)の無人月面探査機「チャンドラヤーン3号」が世界で4カ国目の月面着陸、史上初の月の南極付近への着陸に成功しました。チャンドラヤーン3号に搭載された着陸機「ヴィクラム」はこれまでほとんど探査されていない月の表面物質、とりわけ将来の月探査ミッションで酸素と燃料の抽出に使用可能な水資源の発見を目指しています。

また、2024年1月にはJAXAの小型月着陸実証機「SLIM」が月面へのピンポイント着陸に成功、2週間続く夜間、寒暖差270度の月面環境に耐えた後、地球との再交信や撮像に成功しました。SLIMは三菱重工が打上げ輸送サービスを担うH-ⅡAロケット47号機に搭載され、2023年9月に種子島宇宙センターから打ち上げられました。

5.月極域の土壌探査

インド(ISRO)と日本(JAXA)のパートナーシップの下、月極域の水資源探査ミッション「Lunar Polar Exploration(LUPEX)」も計画されています。LUPEXプログラムでは、無人探査ローバーが、月極域の水資源のデータを取得し、将来の持続的な探査活動に利用可能か判断することを目指しています。ローバーは、三菱重工の不整地走行の要素技術等を活用して、月の表層の観測や水分布の可能性がある地点での元素観測や採取を行う予定です。

月極域のサンプルを採取するLUPEXローバー

月極域のサンプルを採取するLUPEXローバー

太陽電池パネルを動力源とするローバーは、駆動システムやバッテリーなど世界最先端の技術により走行し、月の土壌サンプルを採取・分析します。

世界の先進技術を結集することで、人類による月面、その先の深宇宙への挑戦が可能となります

ジョニー・ウッド

ジョニー・ウッド

ジャーナリストとして、15年以上にわたりアジア、ヨーロッパ、中東の世界各地で活動。多くの特集記事執筆のほか、数々の一流ライフスタイル誌や企業出版物を編集。