若手技術者へ。自分の短所に悩むのは、もう止めよう

2020-08-13
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今後、未来を切り拓いていく若手技術者に一言アドバイスをするとしたら...プライメタルズテクノロジーズ社のメカトロニクス製品部で初の女性部長となったNicole Oberschmidleitnerに話を聞きました。

若手技術者にひとつアドバイスをしてあげられるとしたら...

自分の短所ばかり気にせず、良いところにしっかり目を向けてください。

もちろん、短所と向き合うのは大切なことです。しかし、人というのはそう簡単に変われるものでもありません。完璧になろうと多大な労力を費やすのは無駄なことです。

その代わり、ぜひご自身の強みを伸ばすことに集中してください。人を際立たせるのはその人の長所を発揮したときです。そして、自分自身を信じてください。長いキャリアの中には大変な時期もありますが、自分を信じ、目指すビジョンを持ち続け、長所を伸ばすことができれば、きっと最後には成功するはずです。

良きメンターを見つけてください。私の人生の中でも、何人かのメンターがいました。最初は父、働き始めた頃は上司。ただ、上司をメンターにすることは、基本的にはあまりおすすめしません。自分よりも年上で、直属の上司ではない人をメンターにするほうが良いでしょう。メンターは、良いときも悪いときもあなたをサポートし、あなたが長所を伸ばし続けられるように励まし、キャリアを共に歩んでくれる大切な存在です。

私は今、キャリアを歩み始めたばかりの若手を支援するために、いくつかのメンタリング・プログラムに取り組んでいます。そこでメンターをしているのは、若い女性ばかりです。

私がこれまでのキャリアの中で向き合ってきた最大の壁。それは、女性であることでした。男性中心だった技術者という職種、そして鉄鋼業界という世界。私が働き始めた頃、自分以外の技術者は全員男性でした。20年前、鉄鋼業界で働く女性は秘書だけで、技術職の同僚は私を対等に扱ってはくれなかったのです。

技術者として男性社員と同等に敬意を払ってもらえるように、仕事についてとにかくたくさん勉強しました。そうすることで、やっと同僚たちは受け入れてくれ、オーストリア国内の製鉄所を訪問する際には、同じチームとして同じ部屋で個人用保護具(PPE)に着替えるようになりました。

これまでのキャリアの中で向き合ってきた最大の壁。それは、私が女性であることでした。

着替えると言っても、防火ジャケットとズボン、靴などを服の上から重ねて着用するだけです。ところが、ある海外出張の際、男性の同僚と一緒にPPEに着替えようとしたことが騒ぎになってしまいました。英国・米国の製鉄所でしたが、そこで働く人の中に女性はおらず、女性用の設備もごくわずかでした。その製鉄所で働く男性たちは、私のことをまるで異星人かのように、珍しそうな目で見るのです。また、英国の別の製鉄所では、同僚の男性社員と一緒にPPEに着替えようとしたところ、マネージャーが大変に困惑してしまうということもありました。男性社員の前で私が着替えることに戸惑っていたのです。結局彼は、私専用の部屋をつくってくれて、出張期間中、私はそこで過ごすことになったのでした。

性別がそれほど問題にならない国も、中にはありました。たとえば中国では、当時から技術職の女性もいましたし、上級職に昇進する女性も少なくありませんでしたから。ただ当時の私にとって、もっと大変だったのは、製鉄所が辺鄙な場所にあったことでした。中国語を話せず、夫と3歳の息子はオーストリアにおり、大変に寂しかったのを覚えています。

そんな中国での2年間を含めた数年にわたる海外赴任を経て、私は、鉄鋼を製造する連続鋳造法の製品開発部門のマネージャーに任命されました。その後、順調に担当事業を拡大し、2014年には生産ライン全体の製品開発を統括することになったのです。

いつも、先の読めない毎日を楽しんでいます。

それ以来、私はプライメタルズテクノロジーズ社のメカトロニクス製品部で初の女性部長として、その職責を担っています。鉄鋼業界向けの特殊メカトロニクス製品の開発・販売を手がけ、生産性、安全性、品質の向上に日々努めています。

ありがたいことに、働き始めた20年前と比べると、男女比率は大きく改善されました。私のチームでも、数名の女性技術者が活躍しています。しかし、この業界にはまだまだ女性技術者が必要です。だからこそ、部下の女性技術者の相談に乗ったり、励ましたりすることを、人一倍大事にしているのです。

技術職の女性にいつもアドバイスしているのは、「主張をすること。」女性は男性よりも努力しなければ成功しない。そんな意見もありますが、その考え方を全く受け入れられません。そうあるべきではないし、そうある必要もない。男性も女性も、能力に差はないのです。女性技術者に必要なのは、もっと努力することではなく、もっと主張をすることです。もっと自信を持ち、異議を唱えられても引き下がらず、自分の意見を通すために戦わなければならないと思うのです。

鉄鋼業界はかつて男性中心社会でしたが、現在は一定の進歩が見られています。
鉄鋼業界はかつて男性中心社会でしたが、現在は一定の進歩が見られています。

今や、若手技術者が仕事で成しうる夢に、制約は一切ありません。デジタル技術がすべてを変えたと言っても良いかもしれません。私が13歳のときには、自宅にコンピューター(当時はコモドールのC64でした)がある生徒は、学校で私ただ一人でした。当時のテクノロジーには、明らかに限界がありました。そしてそれは、私の世代の多くの人が抱く夢に、大きな制約をもたらしていました。

最も特別な瞬間は、まさに世界に変化をもたらすであろう何かを、この手で生み出すことができたときです。

現代では、世界のあらゆることが急速に進歩しています。若い世代は、技術が毎日のように飛躍的な進歩を遂げることに、もはや驚きませんよね。そう、みなさんの可能性は、どこまでも無限に広がっているのです。私たちは普段の生活の中で、スマートフォンなどのデバイスを通じてテクノロジーの急進化を体感していますが、同じように産業の世界でも、急激な変化が起きています。オートメーション、クラウドコンピューティング、IoT(Internet of Things)、AI(人工知能)・・・。こうした新技術の登場が、鉄鋼産業の仕事のあり方も、次第に変えつつあるのです。

デジタル化も、ロボットも、人の仕事を奪うものではありません。"労働者"を、"専門家"へと変える技術です。また同時に、新たなテクノロジーが平凡な単純業務を削減していくことで、私たちは、より幅広い領域を横断して仕事ができるようになるのです。次の仕事はどんなものになるだろう。私はいつも、先の読めない毎日を楽しんでいます。

つまり、エンジニアリングを学び、仕事にする人は、もはや、ある1つの分野の技術者でいるだけでは不十分なのです。これからの技術者は、複数の学問領域に精通する必要があることを理解する必要があるでしょう。私自身、若い頃に電子機械工学を学位として選んだのは、機械工学、電子工学、ソフトウェア設計を横断して学ぶことができるからでした。オーストリアのリンツ大学で電子機械工学を学び始めた頃、この種の学位は世界でほとんどありませんでしたが、ここ20年間の急激な変化によって、今日では多くの種類の横断的な工学学位が生まれています。

技術者の一番の醍醐味、それは、新しい何かを生み出すことではないでしょうか。私は小さい頃から数学が好きだったのですが、学位を選んだり、キャリアを考えたりする際には、数学はあまりに理論的すぎると感じてしまいました。私がやりたかったのは、変化をもたらすこと、何かを創造し、それを現実にし、世の中に影響を与えることでした。それから、一日中オフィスにこもっているのも嫌でした。幸い、これまでのキャリアでは、その希望を両方とも叶えることができましたし、仕事を通じてたくさんの素晴らしい経験ができました。でもやはり、最も特別な瞬間は、まさに世界に変化をもたらすであろう何かを、この手で生み出すことができたときなのです。

若手技術者が、さまざまな技術分野で活躍することを期待しています。
若手技術者が、さまざまな技術分野で活躍することを期待しています。

一つ、私の過去のエピソードをご紹介しましょう。以前、棒鋼の製造に使用する直径20cmの細い管を測定したい、というお客様がいました。棒鋼は、管に溶鋼を注いで冷却することで作られます。しかし、その管は永久に使用できるわけではなく、磨耗したり変形したりするため、交換が必要になります。非常に高価なため、本当に交換の必要があるときだけ管を交換したい(たとえば、50回使用したら交換、と決めるのではなく、管の消耗具合を測定して交換の必要があるかをチェックしたい)という要望でした。ところが、管の直径は非常に小さく、従来の方法で測定することは極めて困難でした。そこで私たちは、その管を通る電動装置にレーザーを取り付けて内径を測定するというソリューションを考案。お客様にも喜んでもらい、その後、このソリューションの開発を進めて、世界中の製鉄所で使用されることとなったのです。

部長として、人材を能力に応じた役割やプロジェクトに配置することにもとてもワクワクしています。適材適所の人員配置をして、チームが素晴らしい成果を上げたときの満足感は、何物にも代え難いものです。さらに、それにも増して嬉しいのは、誰かの長所に注目して、その人の成長をサポートできた、と実感できたときです。

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Nicole Oberschmidleitner

オーストリア、リンツに拠点を置き、金属鉄鋼産業向けの機器およびサービスのソリューションサプライヤーであるプライメタルズテクノロジーズでメカトロニクス製品部長を務める。プライメタルズテクノロジーズは三菱重工業グループの企業。

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