カーボンニュートラル達成に向けて、天然ガスが求められ続ける理由とは

2022-02-09
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天然ガス市場に衝撃が走ったのは、COVID-19の世界的大流行が一時的に落ち着き始めた頃でした。経済活動の再開によって需要が拡大する一方で、供給量は不足。価格が高騰し、欧州やアジアのエネルギー消費者は、大きく動揺しました。

この大規模な価格変動によって各国では、エネルギー企業の経営破綻や政府の方針変更、さらには石炭燃料への回帰までも引き起こされる事態となりました。

例えばドイツでは、エネルギー戦略の変更を余儀なくされ、2021年上半期には石炭火力発電所が国内の主要なエネルギー供給源に取って代わる結果となりました。

また、英国においては、天然ガスの価格変動リスクを回避するべく、ボリス・ジョンソン首相が新たな指針を発表。2035年までに英国のすべての電力を再生可能エネルギーと原子力で賄うという意向が表明されました。

しかし、英国のような動きが世界中で起こることはなさそうです。むしろ天然ガスは、カーボンニュートラルに移行する際の架け橋として、重要な役割を果たしてくれることでしょう。ここからは、そのように考えられる3つの理由について述べていきます。

1. 石炭の代替として利用できる

今、脱炭素化の機運が世界中で高まっているにもかかわらず、CO2の排出量は増加の一途をたどっています。それはなぜでしょうか。

ロックダウン後、世界が活気を取り戻し始め、特にアジアを中心とした発展途上国では経済が爆発的に拡大。これに伴って、電力の需要は急増しました。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界の電力需要は2022年には4%の増加が見込まれていますが、この増加分のうち半分は化石燃料で賄われる見込みです。これは、発展途上国では多くの国が石炭に依存しているためです。

さて、ここで活躍を期待されているのが天然ガスです。天然ガスを石炭の代替として利用すれば、排出されるCO2は約半分に抑えられます。実際に中国やインドのようなエネルギー不足の国々では、石炭からより環境に優しい天然ガスへの移行が少しずつ進められています。

天然ガスは、アジア地域の石炭への依存を打ち破る救世主として期待されている
天然ガスは、アジア地域の石炭への依存を打ち破る救世主として期待されている

2. 再生可能エネルギーの不足分を補完できる

風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーは、天候の影響を受けやすく、十分な日照や風がない場合は必要な電力が生み出せないというリスクがあります。

また、好天候時につくられた余剰電力を、悪天候時に回すことはできません。電池に蓄えたり、水を電気分解することで水素に変換したりすることはできますが、生み出された電力のほとんどは、使用しなければ失われてしまいます。そこで、再生可能エネルギーで電力が賄いきれない場合に、天然ガスで不足分を補うという方法が検討されています。需給のバランスに応じて天然ガスを利用することで、安定して電力を供給できるのです。

世界における再生可能エネルギーの発電容量は急速に増加し、2022年には6%増加するとされています。しかしそれでもエネルギー需要の増加分の半分を満たすに過ぎないのです。この乖離を埋める上でも、天然ガスが大きな役割を担ってくれることでしょう。

供給が不安定な再生可能エネルギー特有の問題も、天然ガスを利用すれば安定して電力を供給できる
供給が不安定な再生可能エネルギー特有の問題も、天然ガスを利用すれば安定して電力を供給できる

3. あらゆる用途に対応でき、水素との相性も良い

天然ガスは、極めて汎用性の高い燃料です。風力発電や太陽光発電とは違って供給が安定していることもあり、暖房、産業、商業、輸送といった幅広い場面で利用できます。活躍の場が広がれば広がるほど、天然ガスに対する期待は膨らんでいくことでしょう。

しかしそれでも、投資家からすると、天然ガス発電所はリターンの最大化に20~40年もの長い期間を要するため、神経質にならざるを得ない面があります。三菱重工では、そのような投資家の不安を払拭する新技術の開発が進められています。それが、天然ガスと水素の両方を燃焼できる発電用タービンです。

同社の『J形ガスタービン』は、水素30%と天然ガスを混合して安定燃焼させることに成功しており、2025年までには、水素100%での燃焼が可能となるように、現在も開発が進められています。この新技術が開発されれば、発電所の運用者は1つのタービンを天然ガスと水素の両方で利用することができるようになるのです。

また、J形ガスタービンは、余剰の再生可能エネルギーから変換されたクリーンな水素を燃料として利用できます。そのため、環境に良いのはもちろん、世界的なエネルギー需要の増大にも大いに役立ってくれるはずです。

順応性の高さから、さまざまな分野で活躍が期待される、天然ガス。その有能さで、カーボンニュートラル達成に向けての着実な歩みを支えてくれることでしょう。

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ジョニー・ウッド

ジョニー・ウッド

ジャーナリストとして、15年以上にわたりアジア、ヨーロッパ、中東の世界各地で活動。多くの特集記事執筆のほか、数々の一流ライフスタイル誌や企業出版物を編集。