核融合エネルギーの鍵を握る、巨大磁石
インデックス
トカマク−−−まるでSF世界から抜け出してきたかのような、この装置。これまで、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『ダークナイト・ライジング』、『インターステラー』など数々のSF映画で、核融合技術が描かれてきました。
しかしこれは、すでに現実世界のものとなっています。トカマクとは、核融合によりエネルギーを生み出す科学装置。現在、フランス南部で進行中の「ITER計画」の一環として、巨大トカマクが建設されているのです。「ITER計画」は、35カ国が参加する世界規模のプロジェクト。炭素を含まない産業規模のエネルギー源をつくりだすことを目指し、巨大な核融合実験炉ITERの建設を進めています。
トカマクは、1960年代にソビエト連邦で初めて開発された、トロダイル(ドーナツ型)磁場コイルを使用する核融合装置方式です(「tokamak」はこの技術のロシア語の頭字語)。2025年後半に稼働を開始するITERに、世界最大のトカマクが搭載されることになっています。
ITERで使用される磁場コイルは、全18基、総重量6,000トンに上る、世界で最も強力な超伝導磁石。核融合によって発生するプラズマを閉じ込めるために、この超伝導磁石が必要とされています。
地上の太陽−−−核融合とは?
核融合は、太陽エネルギーを地球上で再現するような技術です。核融合炉では、太陽の中心部と同じように、水素原子が衝突・合体し、ヘリウム原子が生成されます。そこで放出される大量のエネルギーをトカマクが熱として捕らえ、その熱で蒸気を発生させてタービンを動かし、電気に変換します。
核融合の大きな利点の一つに、従来型の原子力発電である核分裂に伴う危険性が無いことが挙げられます。従来の核分裂では、重原子が小さな原子へと次々に分裂していく連鎖反応が発生します。しかし、核融合の場合、水素のような軽い原子を結合させてより重い元素を形成させるため、連鎖反応が発生しません。こうした核融合の安全性を大規模実証することは、ITER計画の目的の一つとされています。
現在の実験環境では、重水素とトリチウムという2つの水素同位体が、最も効率的な核融合を起こすことが分かっています。摂氏13万度に上るトカマク内では、電子と原子核が分離され、空気の十万分の一という低密度の超高温ガスであるプラズマが生成されます。ITERにおけるトカマク内で生成されるプラズマの体積は、従来の核融合炉の数倍。トカマク内部は超高温になるため、プラズマを金属で閉じ込めることができません。そこで、巨大磁場を利用してプラズマを閉じ込めることで、核融合反応を確実に起こせるようにするのです。それを実現するのが、トロイダル超伝導磁石、すなわち磁場コイルです。
ビルに匹敵する巨大磁石
ITER計画において、プラズマを閉じ込める役割を果たすトロイダル磁場コイル。その開発・建設を日本の国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)が主導し、三菱重工グループは、18基中5基の磁場コイルを納入しています。
コイルの製作には、世界最大の5軸加工機を使用。完成したコイルは、原子炉容器検査用に開発された大型X線・超音波検査装置により、当社の二見工場で試験が行われました。
重さ310トン、幅9メートル、高さ16.5メートル。5~6階建てのビルに相当する巨大なコイルは、2012年8月に受注し、7年半の開発・製作期間を経て、2020年1月、第1号機を納入しました。2ヶ月をかけて日本からフランスへ輸送され、高精度のレーザー誘導組み込みにより、±5mmの公差を実現しています。
今後、2021年までにさらに3基、その後2022年に全基納入を予定。そして3年後に「ファーストプラズマ」、すなわちITERの立ち上げが待っています。
5年後には、核融合炉の生成するエネルギーが、稼働に要するエネルギーを超える見込みです。つまり、ITERはエネルギー収支を生み出す初めての核融合炉となるのです。わずか50MWの入力電力から、小型核分裂発電炉に相当する500MWの出力が期待されています。投資対効果にして10倍。かつてはSFに過ぎなかった核融合が現実となる日は、すぐ近くまで来ているのです。
三菱重工の核融合炉 国際熱核融合実験炉(ITER)への取り組み