APACにおけるエナジートランジション
東はオーストラリアやニュージーランド、西はインドにまで及ぶ、広大なアジア太平洋地域(APAC)。この地域では、中国と日本を除いても、実に20億以上もの人々が暮らしています。温室効果ガス排出量は、世界の約5分の1を占め、一部の国々では現在も急速に増加中です。これらAPACの国々の現状と、同地域における三菱重工グループの取り組みをご紹介します。
APACに求められるのは、段階的なアプローチ
APACでは国によって経済発展の度合いがまちまちであり、エナジートランジション(低環境負荷エネルギーへの転換)は、一律的なアプローチでは意味がありません。この地域は大きく3つのカテゴリーに分類することができます。
1つ目のカテゴリーは、エナジートランジションの初期段階にあり、現在も石油と石炭由来の火力発電に大きく依存する、インドやインドネシア、そしてASEANの多くの国々です。これらの国々の最善の戦略は、まず、エネルギー効率の向上とエネルギー消費量の削減に重点を置くことです。輸送や貯蔵、安定した供給体制を含む、ガスのバリューチェーンを構築することにより、石炭からガス、特に液化天然ガス(LNG)への転換を進めるべきだと思います。なかでも、インドネシアやフィリピンのように国内に再生可能資源があるならなおさらでしょう。実際、三菱重工グループは、地中熱源の豊富なフィリピンの地熱発電所を拡張することを発表しました。一方で、これらの新興経済国が大掛かりな風力発電施設、太陽光発電施設を開発するには、予算的に現実的ではないという問題が残っています。
2つ目のカテゴリーとなるのは、シンガポールやマレーシアです。エナジートランジションの第二段階にあり、すでにガスへの移行を推進し、特にシンガポールでは、全発電量の95%をガス発電が占めています。これらの国々は次の段階である再生可能エネルギーに取り組むべきであり、その挑戦が今、始まっています。たとえば、シンガポールが誘致を図る大手テクノロジー企業も、データセンターをはじめとする施設のすべてを、グリーンエネルギーのみで稼働させています。国家レベルで再生可能エネルギーの使用を推し進めようとしているのです。一方で、その地形は再生可能エネルギーを利用するには、不向きです。シンガポールは小さな島国であり、ソーラーパネルや風力発電用タービンを設置できる土地が限られているからです。そのため、対処策として、三菱重工グループは水素やアンモニアなどの代替燃料の生産・輸入に、政府やケッペルデータセンター(Keppel Data Centres)などの地元企業と協力して取り組んでいます。
エナジートランジションが進むオーストラリア
3つ目のカテゴリーは、再生可能エネルギーの利用が進むオーストラリアです。同国は石炭やガスなどの天然資源が豊富で、国土も広く、十分な風量・太陽光を得られるという利点を活かし、エナジートランジションを遂行しています。さらには日本や韓国、シンガポール、そして欧州などをターゲットに、グリーンエネルギーの主要輸出国になることを目指しています。
当社が果たすべき役割は、これらの取り組みを加速するための技術的、財政的支援を提供することだと思います。その好例と言えるのが、ニューサウスウェールズ州政府が支援するシドニー西部の「エアロトロポリス(空港都市)」の大規模開発です。これは、シドニーの第二空港や商業・住宅開発、新しい交通システム、新しい研究施設のすべての動力をクリーンエネルギーで補うという、巨大なプロジェクトです。三菱重工グループは、数少ない日本のパートナー企業の1つとして、立ち上げから関わっています。
すべてのステークホルダーに焦点を当てる
三菱重工グループは上記の他にも、南オーストラリア州のスタートアップ企業であるH2Uに投資し、専門知識と各種機器を提供しています。同社は現在、グリーンアンモニアとグリーン水素の生産を進めており、最終的にはそれらの輸出までを計画しています。海外に輸出する前に、国内顧客を開拓し生産体制を段階的に整えるという同社の堅実な事業計画に我々は心惹かれました。一方、同社が我々を選んでくれた理由の1つには、同社のプロジェクトに難色を示す地元先住民のリーダーとの話し合いの場に、私が駆け付けたことが挙げられると思います。彼らの話に直接耳を傾けたり、南オーストラリア州関係者の方々と一緒にラグビーの観戦をしたり、そのような貴重な時間を作ることができたからだと思います。
さまざまなパートナーと心を通わし、信頼しあえる人間関係を構築する。すべてのステークホルダーのニーズを理解し、その実現のためにあらゆる手を尽くす。その姿勢こそが、APACにおける三菱重工グループの成功を決定づけたのかもしれません。
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