環境に配慮した次世代新交通システムの新ブランド「Prismo」
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公共交通機関の課題は、できる限り多くの乗客を経済的に且つ環境への影響を最大限抑えた方法で輸送することです。しかし、密集した都市環境で既存のインフラを活用することは容易ではありません。そこで注目されるのが、全自動無人運転車両システム(AGT)です。AGTは、従来の鉄道やバスネットワークに比べ数多くの利点を持ち、世界中の都市や空港での導入が進んでいます。
AGTの最大の特徴は、そのコンパクトな設計です。既存の道路や建物の上、あるいはその周囲に建設できるため、土地取得やインフラ建設にかかるコストを削減し、建設期間を短縮できます。また、ゴムタイヤ方式を採用することで、従来の鉄道より急なカーブや勾配にも対応可能となり、より柔軟なルート設計が実現します。
さらに、ゴムタイヤ方式は騒音、振動、摩擦を抑え、電気駆動システムを導入することで、ディーゼル駆動の交通システムに比べて環境負荷が軽減されます。自動運転技術の導入により、運転手によるヒューマンエラーなどの影響を排除し、安全性とエネルギー効率を向上させることで運用コストの削減も実現します。
三菱重工業(MHI)は、AGTの国内シェア50%以上を誇るトップメーカーです。既にシンガポール、マカオ、ドバイなどアジア・中東の主要都市の他、アメリカの多くの空港でもAGTが採用されています。また、MHIは軌道や車両の製造だけでなく、信号、電力供給、ホームドア、自動料金収受システムなどシステムインテグレーターとしての役割も担っています。
新ブランド「Prismo」の特徴
各都市でさまざまな交通手段の導入が模索される中、鉄道システムも競争力を保ち続ける必要があります。このような背景のもと、MHIはAGT Crystal Moverファミリーの新ブランド「Prismo」を約10年ぶりに市場投入しました。
Prismoの最も革新的なポイントは、高密度で高出力のバッテリーを用いたエネルギーマネジメントシステムです。数秒で充電可能なバッテリーの導入により、駅での停車時、走行中のブレーキ時に急速充電されるため、従来のAGTシステムと比較し運行中のエネルギーを10%節約できます。また、センターガイド方式を導入することで、システム全体のスリム化と施工の簡素化を実現し、インフラ建設費を大幅に削減します。従来のシステムでは、給電レールが故障した場合に立ち往生するリスクがありましたが、駅間の架線による給電ではなく電源を搭載したことで、必ず次の駅まで到達できるようになりました。
環境への配慮と脱炭素化の取り組み
Prismoの車両には重いステンレス鋼ではなくアルミニウム合金が使用され、軽量化が図られています。断熱性や遮音性の向上を目指し、ダブルスキン構造を採用、ボギー台車やシート材も軽量化されています。また、省電力のLED照明やオイルフリーエアコンプレッサーを用いたブレーキシステムも導入されています。
さらにPrismoは、三菱重工の三原製作所(広島県三原市)で組み立てられています。海と山、緑に囲まれた三原製作所は、1940年代に蒸気機関車や鉄道車両用のエアブレーキ装置を製造するために設立されました。同製作所では約100年にわたる鉄道システムの製造を行っており、はんだを使わずにパネルを接合する摩擦撹拌接合などの最新の製造技術を備えています。
長さ400メートルの巨大な工場では、組み立てラインに沿って車両を移動させながら、部品の溶接や機材の設置、何層にもわたる塗装などの工程が行われ、時間をかけて丁寧に組み立てられています。現在、多くの顧客が選択する環境に優しいヘアライン仕上げにより、金属は滑らかな質感に研磨されています。
工場内の多くの工程は、巨大な工作機械や溶接トーチ、クレーンを用いて自動化されていますが、車両の製造には十数社のサプライヤーから調達した何千もの部品を組み立てる必要があります。そのため、多くの工程が手作業で行われ、厳格な品質管理が実施されています。完成した車両は最終的に工場内にある長さ1.5kmの試験用線路での性能テストを経て、出荷されます。
これまでに1,100両以上の車両を三原製作所で製造した実績がありますが、特筆すべき点として、2040年までのカーボンニュートラル達成を目指す三菱重工の「MISSION NET ZERO」プロジェクトの一環として製作所全体の脱炭素化に取り組んでおり、持続可能な未来に向けた重要な一歩を踏み出しています。
同製作所では、大規模な太陽光発電設備を導入することで、工場で使用する全ての電力の再生可能エネルギー由来とし、脱炭素化を達成しています。また、徹底した省エネ・合理化や電気自動車の利用等により、スコープ1とスコープ2を合わせて、年間で約1万トンのCO2削減を達成しています。
さらに、MHIの世界中の施設における環境負荷を軽減するための施策を「カーボンニュートラルトランジションハブ三原」として試験的に実施しています。その一例として、三原製作所に隣接する「和田沖の森」の保全活動に取り組んでいます。ここでは、社員たちが鳥のさえずりを聞きながら散歩やジョギングを楽しんだり、昼食をとったりしています。
これまでに、生産時のCO2排出量の40%削減を達成しています。その他の効率化と合わせると、Prismoのライフサイクル全体でのCO2排出量は従来のUrbanismoモデルよりも10%以上低く、同等の乗客数を持つ多くのディーゼルバスやEVバスと比較しても大幅な低減に寄与します。
この貢献は、日本のみならずPrismoの主要ターゲット市場の一つである米国においても大きな魅力となるでしょう。最近設立されたGX(グリーントランスフォーメーション)セグメントの一部であるモビリティ事業がグループ全体で先駆的な役割を果たしていることも示しています。
Prismoの開発責任者が述べるように、都市を形作り、環境に利益をもたらし、多くの人々の生活に影響を与える交通システムを構築する機会は大きなやりがいを感じる事業です。
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