CO2を液体燃料へエネルギーの未来に挑む技術者

2020-04-23
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年間約370億トンに達する、世界の二酸化炭素排出量。そのCO2を、大気に到達するまでに回収し、有用な使い方ができるとしたら。

三菱パワーには、この構想に挑む一人の技術者がいます。2019年、ヴェルナー・フォン・ボイエ賞を受賞したFlorian Möllenbruck氏。ガス火力発電所からメタノールを合成する研究が評価され、現在はそのノウハウを交通分野にも応用しています。

この技術は、ガス火力発電所から発生するCO2を回収して再利用すると同時に、ガソリン車やディーゼル車のCO2排出量削減につながる合成液体燃料を生成する可能性をも秘めたものです。

Möllenbruck氏に、自身の研究について、そして今回の受賞の意義について聞きました。

Q. 機械工学・発電技術の分野で研究を始めたきっかけは何ですか。

小さい頃から"技術"が好きで、何かを作ったり、レゴテクニックのセットを組み立てたりすることに何時間も熱中していました。

技術に興味を持ち始めたのは、ごくありきたりですが、父の影響です。土木技師として働いていた父はいつも、自分が関わっているプロジェクトについて話してくれました。そして私も一緒に、そのプロジェクトの課題や解決策を考えていました。技術への情熱は、そんな風にして父から受け継いだのです。

10代半ばになると、週末は父と一緒に仕事をするようになり、同時に製図技術者のインターンシップも経験しました。

発電所の技術に関心を持ったのは、大学の熱力学の講義がきっかけです。発電で新しい燃料を作るというアイデアに惹かれ、現在のキャリアを選ぶことになりました。

Q. 研究内容と、受賞の経緯を教えてください。

今回の受賞は、ガス火力発電所からメタノールのような合成燃料を生成する技術について研究したPhD論文が評価されたものです。

このような名誉ある賞をいただけたことは、私の研究成果の証明になりますし、今後の研究のモチベーションにもつながるため、大変光栄に思っています。

この研究は、ガス火力発電所の排煙から、二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)技術を用いてCO2を回収し、精製する技術です。風力発電や太陽光発電などの余剰再生可能エネルギー源から生成される水素を利用し、回収したCO2を圧縮。合成メタノールに変換します。

余剰再生可能エネルギーから生成される水素を利用してCO<sub>2</sub>を圧縮し、合成メタノールに変換します。
余剰再生可能エネルギーから生成される水素を利用してCO2を圧縮し、合成メタノールに変換します。

回収したCO2から合成燃料を生成することで、化石燃料発電所からの排出量を削減できるほか、余剰再生可能エネルギーを貯蔵することも可能になります。本来は失われるはずだったエネルギーを蓄えられるようになるのです。

三菱パワーでは、入社して以来、電力部門と運輸部門をつなぐ"Power-to-Fuel"の研究を行っています。メタンやメタノール、合成ガソリンといった電力ベースの合成燃料(E燃料)を、輸送部門向けに生成するというものです。研究はすでに試験段階を通過済み。最適なプロジェクトがあれば、スケールアップする準備が整っています。

Q. 研究を進める中で、一番の喜びは何ですか。

この仕事は、毎日が刺激的で、先が予測できません。自分の中の経験、知識、創造性のすべてを活かして、常に新しい課題と向き合い続けています。

言うまでもなく、エンジニアリングへの強い情熱があったからこそ、今日まで研究を続けてくることができました。現在所属しているチームでは、交通機関などの脱炭素化を支援するための研究を行っています。研究を通して、気候変動対策や人々の生活向上というスケールの大きい課題解決に貢献すること。それが、私たちが前へ進む大きなモチベーションになっています。

ドイツにある三菱パワーの実証プラントでは、メタノールの原料として炭素を使用しています。
ドイツにある三菱パワーの実証プラントでは、メタノールの原料として炭素を使用しています。

Q. 現在の研究は、社会にどのような変化をもたらしますか。

研究を始めた当時から、地球温暖化という問題自体は世界中で広く認知されていました。しかし、エナジートランジションというテーマは、現在のように注目されてはおらず、緊急性が高い問題とも考えられていませんでした。

私たちがつくる合成燃料は、化学産業からガスタービンまで幅広い用途に使用され、CO2レベルの削減に貢献しています。既存の内燃機関においても、ガソリンやディーゼルに代わってメタノールなどの燃料が使用され、排気ガスの削減に繋がっています。

この技術は、自動車市場での活用も考えられますが、最も期待されるのは、飛行機や船といった電化しにくい運輸手段を脱炭素化することです。私たちの研究で地球全体を脱炭素化するのは難しいかもしれませんが、特定の分野におけるCO2排出量削減は、きっと実現できることでしょう。

また、これからの燃料には、環境面・経済面の両方での競争力が求められます。私たちが研究する技術は、環境面でのメリットはもちろんですが、今後本格的にスケールアップすれば、経済的にも高い競争力を獲得できるのではないかと考えています。

三菱重工グループのCO2を利用した技術脱炭素社会構築に向けた取り組みはこちらから

ジョニー・ウッド

ジョニー・ウッド

ジャーナリストとして、15年以上にわたりアジア、ヨーロッパ、中東の世界各地で活動。多くの特集記事執筆のほか、数々の一流ライフスタイル誌や企業出版物を編集。

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