三菱造船が未来を拓く
インデックス
三菱重工の最も歴史ある事業が、最も近代的な事業の一つになろうとしています。1884年、後に三菱重工業(MHI)となる当社グループは、造船業からスタートしました。140年以上が経過した現在も、三菱造船は三菱重工の中核として先進技術を開発し、高密度艤装船の建造に加え、高度な海事エンジニアリングとサービスを提供しています。
私たちは、次世代船舶、特に低炭素燃料を動力として輸送する船舶のパイオニアとなることで、競争の激しい業界で収益性の高いニッチな市場を開拓し、ひいては日本の造船業界全体に将来性があることを示せると考えています。
一見すると日本は、国の支援を受けた中国・韓国の巨大造船所と、欧米の技術開発に長けた老舗造船企業の中間に位置しているように見えます。中国と韓国の造船所は大量に建造することで1隻あたりのコストを大幅に抑えられるため、価格面で20%以上の優位性があり、欧米の造船企業は、現在も使用されている技術を開発した老舗として、強力なブランド力と長年にわたる顧客関係を持っています。
しかし、より詳細に見て行くと、日本の造船産業にも独自の強みがあります。私たちは、かつてライセンスを通じて取得した技術を独自に発展させてきました。また、これまでに強力な国内サプライチェーンを構築しており、内航船によって国内工業製品の約40%を輸送する広範なネットワークに加え、最大手の外航船運航企業や船主といった強力な顧客基盤を有しています。このエコシステムは非常に柔軟で、これにより競争と協業が推進されています。技術革新が加速している現在の造船業界において、これらの事柄は日本の大きな強みとなるでしょう。
サービスとしての技術
三菱造船は、国内の大手造船会社の中で最も技術を重視する企業として、この変化をリードしていきたいと考えています。当社は、2つの強みにフォーカスしています。第1の強みは、ロールオン・ロールオフ貨物船(RORO船)、海上保安庁向けの巡視船や調査船、洋上風力発電所を陸上の電力網に接続するケーブル敷設船などの、特殊船の建造技術と実績です。
これら特殊船の需要は限定的で、当社では年間5隻程度の建造ですが、設計と建造には非常に高度で複雑な技術力が必要とされます。これは利益となるのみならず、複雑かつ高度な技術力を維持し、技術力とスキルを磨き続けなければならない事を意味し、結果的に複雑かつ高度な技術が組織に蓄積されることを意味します。
一例がガスハンドリング技術です。もはや大型LNG輸送船の建造はしていませんが、液化CO2輸送船、メタノールおよびアンモニア燃料船、LNG/アンモニア燃料船など、将来の海事産業の主力となる次世代燃料船の設計と建造に必要な経験とノウハウを有しています。
ここから三菱造船の第2の強みが生まれます。これまで培ってきた要素技術を最大限に活かすため、2012年に造船事業を補完する海事エンジニアリングサービスを立ち上げました。船舶全体の設計をはじめとして、燃料貯蔵タンク、LNGおよびアンモニア燃料ハンドリングシステムなどの主要部品の提供も可能です。また、船上CO2回収・貯留システムの開発も進めています。
さらに、独自の船舶3Dシステム「MATES」や、設計中の船舶を簡単に可視化できる「3D-Viewers」を開発から販売まで幅広いソリューションとして提供しています。
このような能力を有する造船所は、日本では三菱造船のみであり、そこでは三菱重工グループの他部門とのシナジー効果も発揮されています。例えば、船舶用エンジンのターボチャージャー、プロペラ、フィンスタビライザー、その他の特殊部品を製造している三菱重工マリンマシナリ株式会社の製品が当社の設計に取り入れられています。

仲間をパートナーに
その結果、三菱造船は次世代燃料を使用した船舶用エンジンの燃料ガス供給システムや船舶全般にわたる幅広い製品やサービスを提供することが可能となりました。また、当社の製品やサービスは、最終顧客だけでなく、日本の他造船所にも提供されており、さらには、フィンランドの海洋エンジニアリング会社エロマティック社との最近の協業が示すように、今後は海外のパートナーにも拡大していく予定です。
この戦略は、海運産業が厳しい脱炭素化目標を達成し、経済安全保障を推進する中で、代替燃料船とクリーンな推進システムに対する需要増加の恩恵を受けつつあります。これは、当社の技術力の価値が今後さらに高まることを意味します。
もちろん、アジアの競合他社も環境に配慮した船舶の市場に参入していますが、日本はこの分野でナンバーワンになることを目指しています。先ほど述べた日本の海運産業内の強力なエコシステムと長い協業の歴史は、設計・部品・作業工程などの標準化を実現や、目標達成を後押しするでしょう。そのためには、当社の主要拠点である下関造船所の岸壁やクレーンレールの増設、デジタルトランスフォーメーション(DX)や自動化など、継続的な投資が不可欠です。同様に、政府の確実な指導と支援も欠かせません。
業界内の企業統合も、日本の造船産業が前進する道筋になる可能性もあります。今治造船はジャパンマリンユナイテッド(JMU)への出資比率を引き上げ、事実上の子会社化を発表しました。これが実現すれば、建造量で世界4位の造船企業体が誕生し、競争力が大幅に強化されるでしょう。こうした密接な協業関係は、生産性向上により効果的とも言えます。例えば、船舶の設計を三菱造船が担い、実際の建造は同業他社の方がより効率的に実施できる場合もあります。
いずれにしても、多くの困難を乗り越え、三菱造船が三菱重工グループの将来に大きな役割を果たし、造船業が日本の主要産業に成長すると私は確信しています。
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