共創がイノベーションを生む、「三菱重工Yokohama Hardtech Hub」

2022-09-22
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三菱重工が横浜製作所の本牧工場内の敷地にオープンした、『Yokohama Hardtech Hub (YHH)』。この施設の総床面積は約2万平方メートル、天井の高さは約15mにのぼります。正面の入り口はトラックに乗車したままゲートを通過することができ、施設内には数トンの機器を吊り上げる大型のクレーンが行き交います。一般的なオフィスビルで働く人々が目の当たりにしたならば、無限の可能性を秘めた巨大な洞窟を探検しているような気分になるかもしれません。

そもそもYHHは、「ハードテック(Hardtech)」と呼ばれる技術領域のさらなる飛躍のために開設された場(Hub)です。ハードテックとは、量子技術や微細加工などの「ハードウェア技術」とAIやIoTといった「最先端のデジタル技術」とを掛け合わせて、次世代の機械システムを開発する分野を指します。YHHには、領域の異なる技術が混じり合い、新たな技術が生まれる可能性が詰まっているのです。

共創できる環境がイノベーションを生む

ハードテックに携わる世の中の企業にとって、本拠地となる場をつくる。製造業に携わるスタートアップ企業、そしてハードテックの開発に取り組む企業の成長を後押ししたい。そのような想いから開設されたのが、YHHです。東京へアクセスしやすい好立地にも関わらず、入居から3年の間は非常に手頃な賃料での利用が可能です。また、一般的なオフィスビルと同様に快適に過ごせる環境が整っています。しかし、YHHの本質は、安い賃料や好立地だけではありません。三菱重工は、パートナー企業やベンチャーキャピタル、地方自治体、学術機関など、さまざまな組織と協力してネットワークやアイデアを提供することで、テナントの各社が技術開発に集中し、会社として発展するためのサポートを行っています。YHHが目指すのは、「ハードテック×共創=イノベーション」。新しい技術を生み出すプラットフォームとして、YHH以上にふさわしい環境はないでしょう。

YHHを設立した背景には、世界的なベンチャーキャピタル投資の急増があります。投資により集まった多額の資金は、今も喫緊の社会課題を解決するための新技術を支えています。社会課題に取り組むスタートアップ企業は、特に成長が期待でき、より多くの資金を調達することができます。そして彼らが次に必要とするものこそが、他のステークホルダーと協力するための共創空間。まさに、YHHのような場だったのです。

YHHでの共創活動が、ハードテック分野に新たな風を吹かす
YHHでの共創活動が、ハードテック分野に新たな風を吹かす

ハードテックによるソフトスキルの開発支援

製造を生業とする企業では、クラウドの導入をはじめとした社内のデジタル化やFintechのような金融サービスの分野に資金の大部分を投資する企業も多いようです。しかし一方で、三菱重工と同様にハードテックの共創スペースを開設し、開発を後押しする企業も増加しています。スタートアップ企業はこうしたスペースを利用することで、ハードウェアの新規開発に必要な試作や改良を繰り返しています。内閣府の調査でも指摘がある通り、スタートアップ企業にとって支援は不可欠です。生み出した技術を守るには特許やライセンスの申請が必要ですし、大量生産が必要になれば、多くの従業員や管理職を採用しなければなりません。三菱重工では、支援先のスタートアップ企業が独立して、製造拠点を設立できる段階に至るまで、手厚く支援していきます。

利用者同士の交流を促進するためのカフェテリア
利用者同士の交流を促進するためのカフェテリア

設立2年を迎えた現在、YHHは9社をテナントとして受け入れています。同じ空間を共にしていますが、事業内容は実に多種多様です。例えば、人工衛星や宇宙関連機器の製造を行う企業もあれば、定置用蓄電池やe-モビリティー(e-バスやe-フォークリフトなど)に使用されるような高効率電池を管理するためのシステムを開発する企業、プラスチック成形工場の生産性に革命を起こそうと開発に取り組む企業もあります。いずれの企業も、技術や事業の成長性はもちろんのこと、社会課題に対する強い問題意識を持ち合わせています。

「変化する社会課題に対して、技術的ソリューションを提供し、社会の発展に貢献する」。三菱重工のこのミッションを、YHHもすでに達成しつつあると言えるでしょう。YHHを訪れると、あなたにも何か新しい発見が生まれるかもしれません。現場のエネルギーとご自身の相乗効果を、実感しに行ってみてはいかがでしょうか。

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ダニエル・ボーグラー

ジャーナリスト。25年以上にわたり、アジア、ヨーロッパ、アメリカの国際的な報道機関で勤務した経験をもつ。