クリーンなLNG燃料への切り替え
気候変動に関する懸念の高まりに加え、足元でエネルギー価格が高騰しています。世界、とりわけ欧州への影響は大きく、欧州のエネルギーミックスは流動的な状態にあると言えます。しかし、こうした混沌とした状況にも関わらず、再生可能エネルギーや水素、液化天然ガス(LNG)など環境に優しいエネルギーへの移行プランは頓挫することはなく、むしろ長期目標への取り組みは加速するのではないでしょうか。
2015年、EUは「エネルギー同盟(Energy Union)」の構築に向けた戦略を発表し、EU地域に安全で持続可能かつ手頃な価格のエネルギーを供給するための目標を設定しました。現在、原子力、水素、再生可能エネルギーなど、この目標達成に向けた動きの中で多くの取り組みが生まれています。
またEUは、エネルギー安全保障を強化し大気中のCO2を削減する取り組みにおいて、LNGが極めて重要な要素だと以前から指摘しています。浮体式貯蔵再ガス化装置(FSRU: Floating Storage and Regasification Unit)は、ネットゼロ目標を達成するための重要な要素となる可能性を秘めています。
LNGが増えればFSRUも増える
実際にLNGを輸入するには、マイナス160℃に冷やされ体積が約600分の1となったLNGを貯蔵し、再ガス化するインフラが必要です。Global Energy Monitorによると、EU地域のLNGターミナルは、スペインに6つ、フランスに4つ、イタリアに3つあり、北西ヨーロッパでは開発されているものの、他の地域ではインフラが整備されていません。2022年2月時点で、新たに5つのLNGターミナルの整備が進められていますが、LNGターミナルの建設には、通常3~5年を要します。そこで、洋上LNGターミナルであるFSRUが注目されています。
FSRUは、固定の陸上ターミナルに対する代替手段となります。FSRUは船舶をベースとしたLNGターミナルで、新造または既存のLNG運搬船に再ガス化設備を搭載し、桟橋に固定化させることで、陸上のLNGターミナルと同じ機能を果たします。一般的に陸上のターミナルよりもコストが安く、機動性の点で勝り、土地利用が限定的なため、環境への影響が少なくて済みます。
足元では、LNG需要の高まりに伴い、FSRUの供給も逼迫しています。LNG輸入団体のGIIGNLによると、2021年末時点での世界のFSRU保有数は48隻であり、新規受注のリードタイムは1年を超えています。
船舶におけるLNG燃料
海運セクターから排出されるCO2排出量は世界全体の約3%を占め、SOₓ(硫黄酸化物)の排出量は増加しています。そのため、EUはパリ協定に基づき、従来の船舶燃料に比べてSOₓやPM(粒子状物質)をほとんど排出せず、CO2排出量も約25%少ないLNG燃料を使用することで、海運セクターの排出量削減を目指しています。
各企業は、海事分野におけるLNGの可能性と利用を最大化するために、政府や業界の取り組みに沿った新しい技術を立ち上げています。
三菱重工グループの三菱造船では、LNG燃料船に不可欠なLNG燃料ガス供給システム(FGSS: Fuel Gas Supply System)を開発しました。FGSSはLNG燃料タンクやガス供給ユニット、制御装置で構成されていますが、長年にわたり同社が培ってきたLNG運搬船の設計・建造の経験、ノウハウを生かし、省スペースかつメンテナンスに優れたモジュールとなっており、操作性と安全性に優れたシステムです。
また、同社は船舶向けにLNG燃料を供給するための船舶「LNG燃料バンカリング船」を建造しています。同船はLNG燃料と従来の船舶燃料のどちらも使用できるデュアルフューエルエンジンを搭載し、温室効果ガスの排出量を削減するとともに、海運セクターでますます厳しくなる排出規制への対応を支援します。
欧州の「大きなチャンス」
欧州を中心としたエネルギー安全保障の動向は地政学に左右され、見通しが不透明となっています。一方で、欧州委員会はLNGを受け入れることでエネルギー安全保障を改善し、エネルギー価格を下げる 「大きなチャンス」 があると考えています。
欧州における2022年1月から5月までの月平均のLNG輸入量は、前年比60-70%増加しており、また、ビジネス顧問会社のFTIコンサルティングによると、2022年2月から5月の間だけで20件以上のLNGプロジェクトの計画が開始または前倒しされています。
LNG需要は今後も高まり続け、エネルギー源としての重要性が増すことは間違いないでしょう。こうした中において、技術力の高い、柔軟なソリューションを提供できる企業こそが「大きなチャンス」を掴むことができるのかもしれません。