原子力による水素製造が切り拓く未来

2022-08-19
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2050年のカーボンニュートラル達成に向けた動きが加速していることに加え、地政学的な問題によりエネルギー価格が上昇していることを受け、世界各国はエネルギー政策の再考を強いられており、化石燃料に替わる大規模・安定供給が可能なカーボンフリー燃料として、原子力が再評価されてきています。2011年に福島第一原子力発電所で起きた事故以来続いた原子力産業にとっての冬の時代を乗り越え、原子力発電は今、第二の「ルネッサンス」を迎えつつあります。

英国では、2050年までに原子力発電の規模を2,400万kWにするという目標を達成するために、合計8基もの大型原子炉の建設が予定されています。また、1基当たりの発電容量が従来の3分の1程度である小型軽水炉(SMR)の開発にも投資しています。欧州最大の原子力大国であるフランスは、14基に及ぶ大型原子炉の建設を計画しています。米国は、今後10年間に閉鎖が予定されている原子力発電所の運転を維持・継続するための支援制度を立ち上げました。日本においても、政府はエネルギー安全保障の観点からも、原子力発電を最大限活用する方針に舵を切りつつあります。

各国政府は原子力発電の位置付けを見直し中
各国政府は原子力発電の位置付けを見直し中

新たな原子炉技術

近年、新たな原子炉技術が多数登場しています。

その一つはSMRです。従来の原子炉の発電容量が100万kW級であることに対し、SMRの発電容量は一般的に30万kW以下とされています。米国、カナダ、英国などの政府は、複数のSMRの開発に資金的な支援をしています。

小規模グリッド、僻地、工業用など、エネルギー需要が限られたプロジェクトには1基のSMRで十分対応できます。あるいは、SMRを複数設置することで、より多くの電力を提供することもできます。三菱重工では、離島-僻地や舶用動力源の用途にも幅広く活用できるSMRが検討されています。

この他に広く議論されている原子炉の概念は、先進的モジュラー炉(AMR)です。AMRは、ナトリウムやヘリウムなどのこれまでと異なる冷却材や新技術を使用して、電力だけでなく工業用、家庭用暖房、およびカーボンフリーな水素製造等のための熱源として活用できます。AMRは、プルトニウムとウランをリサイクルして製造するMOX燃料(Mixed Oxide Fuel:混合酸化物燃料)や、高性能セラミック被覆燃料などの燃料が適用されます。

離島・僻地や舶用動力源の用途にも幅広く活用できる小型軽水炉(SMR)
離島・僻地や舶用動力源の用途にも幅広く活用できる小型軽水炉(SMR)

原子力エネルギーを利用した水素製造

こうした様々な目的のために利用される原子炉の一つが高温ガス炉です。高温ガス炉の最大の応用分野は、カーボンフリーな水素の製造です。この水素は、CO2を発生しない原子力をエネルギー源としており、一部では「ピンク水素」や「パープル水素」とも呼ばれています。

三菱重工では、900℃以上の高温で水素を大量に製造する高温ガス炉プラントを開発しています。冷却材には従来の水(軽水)ではなくヘリウムガスを使用します。

ここで生産した水素の代表的用途の一つとして製鉄があり、現在は大量のコークス(炭素)を用いて行われている還元プロセスを水素で代替することが期待されています。その他にも脱炭素が簡単ではないセメント産業、運輸などの部門も、長期的には原子力由来のカーボンフリー水素の市場として見込まれます。

三菱重工の高温ガス炉を用いた水素製造方法として、先ずは技術的に確立済みの水蒸気改質法を活用します。この方法で製造された水素はメタンを原料としていることから、CO2の排出を伴う「低炭素水素」となりますが、最終的にはカーボンフリーな製造方法に移行していきます。

また、高温ガス炉は、風力発電所や太陽光発電所に比べて、はるかに小さな敷地面積で大量の水素を製造することが可能です。このことは、日本やその他の島国のような設置面積に制約のある国にとっては特に魅力的です。また、万一の事故時にも、原子炉を冷却し、安定した状態で停止できる安全機能も強化されています。

高温ガス炉による水素製造
高温ガス炉による水素製造

より安全で、より環境に優しく

原子力ルネッサンスはまだ道半ばですが、これらの新たな原子炉は、カーボンフリーな原子力エネルギーの利用用途を従来の発電から水素製造にも拡張し、原子力の付加価値を向上します。これにより、エネルギー安全保障の強化と脱炭素化の加速が実現されることでしょう。

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アンドレア・ウィレッジ

コミュニケーションのプロフェッショナルとして20年以上活動。テクノロジー、エネルギー、エンジニアリング関連など、多数の一流企業のコンテンツを制作。