技術の進歩と宇宙開発の加速
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遠い昔から人間は星を眺め、科学者だけでなく芸術家もエンジニアも小説家も、「最後の未開拓地」に思いを馳せてきました。
今日では、技術の進歩に伴って、これまで国や政府の傘下にあった宇宙領域の門戸が開かれ、たくさんの探求者たちが新たに足を踏み入れています。
技術の進歩による宇宙開発加速の時代の幕開けです。いまや車を軌道に向けて打ち上げる民間企業、iPhoneを空に放ち軌道に乗せようと試みる小学生など、かつてないほどに多くの人々が大気圏の高さやその外側の世界に触れ、宇宙に挑戦するようになっています。
三菱重工グループは、最後の未開拓地である宇宙のへの挑戦者として長年パイオニア的存在でありつづけています。70年代から、信頼できる製品を作り、ロケットの打上げを支えてきました。
そして9月、三菱重工は国際宇宙ステーションに補給物資を運ぶというミッションを担うH-IIBロケットの7回目の打上げを行います。H-IIBロケットは、宇宙ステーション補給機「こうのとり」を搭載して打ち上げられ、今回のミッションで得られる成果は次世代のロケット開発にも生かされることになります。
また、三菱重工のH-IIAロケットは、2017年の1年間に、“日本版GPS”とも言われる準天頂衛星や気候変動観測衛星など、合計6回の衛星打上げミッションを成功させ宇宙への挑戦者としての存在感を益々高めています。
しかし、どのようにして、宇宙開発がこれほど加速したのでしょうか。その経緯を知るため、宇宙産業が超大国によって独占されていた時代から振り返ってみましょう。
宇宙開発のローコスト化
宇宙開発競争が最も激化していた1960年代、アメリカ合衆国政府が当時NASAや宇宙関連の科学研究に投じていた金額は、1年間の歳出の4%にも上るとされています。現在の歳出総額から算出すれば、年間およそ1520億ドル。ハンガリーやクウェートなどの一部の国のGDP総額を上回るほどの金額です。
この金額は、今日の政府系宇宙機関に割り当てられる資金をはるかに上回っており、また数多くある民間宇宙ベンチャーの運用費用などとは比較にならない莫大な額です。
たとえば、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのTwinkleと呼ばれる太陽系外惑星の化学組成を探るミッションでは、投入資金がたったの6500万ドルだと言われています。
それに対しNASAのケプラープロジェクトも同じく太陽系外惑星を探ろうとするものですが、これにはおよそ6億ドルが投じられています。Twinkleと比べると、ほぼ10倍の金額です。
NASAでは、宇宙機ケプラーをイチから製作しています。自分たちの欲しい精密工学機器、つまりロケットをオリジナルで製作し、それで未知なる銀河を探検させているのです。
一方、Twinkleに参画する大学側の人たちは、「既製品」を用いたアプローチをしています。既にある人工衛星技術に手を加えることでケプラープロジェクトと同等の結果を得ようとしている、ということです。ミッション遂行のために必要となる高度な計算処理能力を持ったコンピューターが、高額だった宇宙開発競争の時代と比べると、手が届くほど低価格になったため、このような手段も選べるようになりました。
人工衛星技術は、今では以前よりはるかに進んでいるうえに価格が下がっています。どれほど手頃かというと、一般の人が自分専用の人工衛星を持てるほどです。
例えばCubeSatは直径10㎝ほどの小さな人工衛星ですが、たった3千ドルほどで宇宙空間に運ぶことができます。打上げ機の内部にすんなりと収まり、大型の商用積載物と同時に打ち上げられるので、コストが抑えられるというわけです。
高校や大学などの教育機関、世界的なコングロマリットなど、様々な団体がCubeSatを打ち上げています。CubeSatの運用主は、ハウジングセンサー、通信型受信機や送信機などを用いて地球や地球外の宇宙を探査することができ、新しいシステムを試しに使ってみることもできます。
2015年に打ち上げられた三菱重工のH-IIBロケット5号機で国際宇宙ステーションに届けられたHTV5も、CubeSatを載せていました。この時のCubeSatは、欧州宇宙機関の教育プログラム「国際宇宙ステーションから人工衛星を飛ばそう(Fly Your Satellite from the ISS)」の一環で、デンマークのオールボー大学の学生チームが製作したものです。これは、海上船舶追跡技術の改良版の試験運用を実施する目的で打ち上げられました。
打ち上げられたCubeSatの大部分は(国際宇宙ステーションと同じく)地球低軌道上にありますが、NASAでは、今後の月と火星の探査ミッションに向けて、宇宙空間のさらに遠い場所へCubeSatを打ち上げることを計画しています。
人工衛星とスマートフォン
宇宙関連技術の進歩に伴い、人工衛星は様々な商業的・科学的な用途を可能にしました。
私たちが普段どれだけ頻繁に人工衛星を利用し、それを当たり前に思っているかということは、スマートフォンを手に取ればすぐに分かります。Googleマップで道を調べたり、健康管理アプリで毎日の歩数を計測したりできるのは、スマートフォンに搭載されたGPS機能のおかげです。ポケットの中のスマートフォンは、地球を周回する24機前後の人工衛星と通信しているのです。
人工衛星通信の需要は大きく、テレビ、電話、ブロードバンドなども人工衛星技術の賜物です。
宇宙開発は、はじめこそ政治的目的によるところが大きかったものの、今日では営利企業が多く参入してきており、敷居も低くなる一方で今後益々加速していくことでしょう。