三菱重工の技術戦略が「コングロマリットプレミアム」を確かなものにする

2024-05-16
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分野の異なる複数の事業を営む複合企業「コングロマリット」は、その複雑さによるデメリットが規模によるメリットを上回っていると判断され、企業価値を低く評価される傾向があります。しかし、気候変動に象徴されるように、社会が抱える課題がますます複雑で困難なものになっていることを考えると、多様な事業を営み、様々な技術や視点を持つコングロマリットには、解決策を見つけるチャンスがあると言えます。

したがって、エネルギー、インフラ、産業機械から、航空・防衛・宇宙まで、多岐にわたる事業を営む三菱重工グループは、このメリットを生かすことができるはずです。より良い新製品を生み出し、売上と利益を伸ばすことにより、最終的には全てのステークホルダーからより高い評価を得ること、すなわち『コングロマリットプレミアム』を実現することが、私たち技術戦略推進室の役割です。

具体的には、あらゆる面で連携を強化することが私たちの仕事です。それらは、様々な基盤技術間の連携、フィジカルとデジタル技術の融合、事業部門のエンジニアと研究開発部門の専門家の協力、そしてスタートアップや大学などの外部のパートナーとの協働など多岐にわたります。

組み合わせが鍵

三菱重工グループには、約35の事業ユニット、700以上の基盤技術に基づく、500を超える製品があり、それらは、貴重な知識の宝庫です。

当社グループが有する多様な技術を組み合わせることにより、イノベーションが加速するに違いないという認識はあったものの、有効な手段がとれていませんでした。しかし、今は総合研究所(海外にも拠点を持ち、基盤技術の開発に取り組んでいます)、技術戦略推進室、デジタルイノベーション本部、バリューチェーン本部で構成される「シェアードテクノロジー部門」が、技術基盤およびマーケティング力の強化や、調達を含めたバリューチェーン等の最適化などの機能を全社横断的に担うことで、イノベーションを加速することができます。

Merging physical and digital technologies is key to developing successful new products
フィジカルとデジタル、2つの技術の融合こそ新製品開発の成功への鍵

開発プロセス自体も大きく見直しました。まず、技術・政治・社会・経済を対象に、顧客の事業を構築-または再構築—するものは何かを考え、120に及ぶメガトレンドを分析しました。各メガトレンドに応じ、担当者自ら課題設定とその解決策を仮説として発案し、単独あるいは複数の研究開発機能を組み合わせて、何百ものアジャイルに動ける小規模の研究チームを結成しました。各々のチームは3ヶ月の期間と決められた予算で、仮説アイディアの検証や試作を行います。続いて、結果を報告し、必要な場合は軌道修正し、さらに3ヶ月間、同じサイクルを繰り返します。この仕組みを「ピボット開発」と呼んでいますが、開始時に想定しなかった方向性を見出すこともあれば、実用化につながる成果を生むこともあります。

現場での成果

この新しいアプローチによる成果は、私たちの期待を超えるものでした。その一例が、当社が世界をリードしているガスタービンコンバインドサイクル発電(GTCC)に関連するエコシステム構築の急速な進展です。例えば、兵庫県の高砂製作所内にある高砂水素パークでは、水素製造装置と水素発電が可能なガスタービンを組み合わせ、水素製造から発電までの総合的な検証を行っています。燃焼・熱交換から水素の取り扱いまで、幅広い専門的知見を有している当社だからこそ、技術をスマートに組み合わせることができ、短期間でエコシステムを構築できると自負しています。また、現在GTCCを運用しているお客様に対し、CO2回収装置の導入も支援しています。これらのソリューションにより、発電で発生するほぼすべてのCO₂を削減することが可能です。

もう一つの事例は、倉庫関連設備の設計・製造の知見と、新たに開発したAIを活用したコントロールシステムの組み合わせです。当社は、無人フォークリフト、無人搬送車、パレタイザーを連携させ、倉庫物流向けの総合的な自動ピッキングソリューションを提供しています。

MHI is rapidly developing an automated picking system by collaborating across businesses
事業をまたいだ連携で自動ピッキングシステムを急ピッチで開発

このソリューションは、当社が横浜で運営するものづくりの共創空間「Yokohama Hardtech Hub (YHH)」でハードウェアとソフトウェアの知見を組み合わせて検証を重ねたこともあり、3年足らずで開発することができました。また、従来の自動化システムより約40%も処理能力を向上させました。さらには、グループ内の他部門の知見を取り入れることで、サイバーセキュリティ対策の強化も可能です。

進行中の取り組み

これらの技術開発を補完するのが、知的財産に対する新しいアプローチです。三菱重工は社外との連携を強化するにつれ、発見や技術をよりオープンにするようになっています。同時に、総合研究所内に新設したIP*イノベーショングループは、新しいアイディアだけでなくプロセスも適切に保護できるように、グループ全体の事業を踏まえた、より幅広い範囲での特許申請に力を入れています。

技術戦略推進室のミッションはまだまだ続きますが、これまでの進展にはとても自信をもっています。三菱重工グループ内の随所で、知識・経験・技術の共有と関係者間の協力が見られます。当社グループの研究開発費の売上高に占める割合は約3%です。競合他社と比べ多くはありませんが、そのうちの4分の3は、既存の製品ではなく、将来に向けた製品の開発に使用されており、私たちの投資には非常に価値があると考えています。

ガスタービンが2年連続で世界シェア1位を獲得したことに代表されるように、当社の製品はお客様に支持いただいています。また、近年の株価の大幅な上昇に見られるように、投資家からの当社への評価が高まっていることも心強く感じています。この背景には多くの要因がありますが、私は、技術を基盤とするコングロマリットはプレミアムに値するという認識が広まってきていることも理由の一つではないかと考えています。

*IP: Intellectual Property (知的財産)

佐藤裕子

佐藤裕子

三菱重工業株式会社 技術戦略推進室長

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