水素がもたらす、再生可能エネルギーの未来

2020-07-02
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再生可能エネルギーの台頭は、世界のエネルギー分野に革新的な影響をもたらしました。しかし、同時に新たな問題にも直面しています。それは、エネルギーの貯蔵・輸送の問題です。

そして、この問題を解決し、風力発電や太陽光発電によってカーボンニュートラルの未来を実現する上で、重要な役割を果たすのが水素です。水素を活用することで、洋上風力発電所のような大規模発電においても、あるいは屋根上の太陽光パネルのような小規模分散型エネルギー生産においても、余剰再生可能エネルギーの貯蔵が可能となるのです。

脱炭素化の鍵、水素

エネルギー分野における脱炭素化への取り組み。これを実現するためには、従来のエネルギー生産方法をほぼ全て、再生可能エネルギーに切り替えなければなりません。そして、再生可能エネルギーにおける「間欠性」という課題を克服するために、大量のエネルギー貯蔵技術を確立する必要があります。

水素に期待されているのは、需要と供給のバランスに応じた再生可能エネルギー利用を可能にすること。エネルギー供給が需要を超えた際、風力発電や太陽光発電を抑制するのではなく、余剰分の再生可能エネルギーを使用してグリーン水素を生成し、それを貯蔵することで、エミッションフリー燃料として使用できるようになります。

工学、物理学、そしてビジネスの観点から、水素は再生可能エネルギーへの移行を促進するために必要な大規模エネルギー貯蔵を実現する鍵として、注目を集めています。

炭素ゼロの未来を実現するために、水素は重要な役割を果たします。
炭素ゼロの未来を実現するために、水素は重要な役割を果たします。

大小規模のエネルギープロジェクト

水素の大きな利点の一つが、汎用性の高さ。多様化するエネルギー分野において、極めて重要な特質です。

これまで、エネルギー分野での水素導入を加速させるため、大規模な持続可能エネルギープロジェクトの構築が議論されてきました。しかし、忘れてはいけないのは、将来のエネルギー産業は"集中型発電"と"分散型発電"の両方からなることです。

大規模な集中型エネルギー発電プロジェクトと、小規模な局所的発電ネットワーク。燃料電池を使用し、その両方の再生可能エネルギーを利用するpower-to-gas-to-powerプロジェクトにおいて、水素は重要なエネルギーキャリアの役割を果たします。製造された水素は、ガスタービンや海上輸送機関を利用した大規模発電所の燃料としてだけではなく、家庭用の燃料としても利用することができるのです。

燃料電池は、余剰な再生可能エネルギーを利用して、グリーン水素を生み出します。
燃料電池は、余剰な再生可能エネルギーを利用して、グリーン水素を生み出します。

水素を活用した電力融通

異なる電力特性をもつ地域間で電力融通を行う上でも、水素はエネルギーキャリアとして重要な役割を担います。

たとえば、アフリカの豊富な日照量を生かした太陽光発電プロジェクトや、中南米の一部地域の洋上風力プロジェクトは、持続可能エネルギーを生み出す大きな可能性を秘めています。しかし、これらの地域では、そもそもの電力需要が少ない場合や、電力網インフラが不足している場合も少なくありません。

そこで、水素を活用することで、電力需要の少ない地域で発生した余剰電力を貯蔵し、需要の多い他地域へと輸送できるようになる可能性があります。

この技術自体はすでに実用化されていますが、まだコスト面で大きな課題が残っています。世界中の需要を満たすために、水素の製造・輸送コストを下げなければなりません。今後、費用対効果の高い水素輸送手段が確立されれば、世界の水素経済は大きく前進することでしょう。

再生可能エネルギーの未来にとって、重要な鍵となる水素。炭素ゼロの世界を実現するために、その力を最大限に活用する技術が、今、強く望まれています。

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エマノイル・カカラス教授

欧州・中東・アフリカ三菱重工(MHI-EMEA) NEXT Energy BusinessのExecutive Vice President