人工衛星による「ダークシップ」追跡に向けたAIの活用

2024-12-17
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洋上には常に約10万隻の船が航行しています。そのうち半数以上は貨物船で、世界中の荷物を港から港へと移動させています。ただし、違法漁船や海賊行為を行う船は身元を隠しているため、その数には含まれません。

近年、衛星画像分析による船舶のマッピング技術が進化し、自動船舶識別装置(AIS)をオフにして検知を逃れようとする船舶、すなわち「ダークシップ」をピンポイントで特定できるようになりました。

地球観測衛星は海上を監視し、画像から船舶を発見します。これは、年間100隻以上の船が海賊に襲われるという状況において非常に重要ですが、撮影画像の分析は手間と時間がかかる作業です。そこで、ダークシップの効率的な探索に人工知能(AI)が役立ちます。

違法漁船などのダークシップの特定を支援するAI(注記:撮影画像の解像度は、使用するカメラに依存する)
違法漁船などのダークシップの特定を支援するAI(注記:撮影画像の解像度は、使用するカメラに依存する)

人工衛星による船の追跡

ダークシップの特定には、地球観測カメラが捉えた高解像度の光学画像をダウンロードする必要があります。しかし、衛星-地上間のデータの送信容量や衛星のストレージには限界があり、これらの画像を地上のコンピューターにすべて送信できるとは限りません。送信できたとしても、人間が膨大なデータを精査し、衛星画像に映った船とAISによる信号を慎重に照合するため、AIS の信号を送信していない不審船の特定や介入行動に遅れが生じる可能性があります。

三菱重工グループが開発した装置は、地上の画像を撮影する点では他の地球観測装置と同様ですが、AIを使用してオンボードで画像データを同時に処理できるところが他の衛星技術と異なります。

AIRISを構成する地球観測カメラ(右)とAIを搭載したデータ処理装置(左)
AIRISを構成する地球観測カメラ(右)とAIを搭載したデータ処理装置(左)

衛星データを使用したAIのファインチューニング 

「AIRIS(Artificial Intelligence Retraining In Space)」と名付けられたこの衛星搭載機器は、地球観測カメラとAIを搭載したデータ処理装置で構成されています。AIRISは、カメラが地球の表面を撮影する際、データを地上に送信して処理するのではなく、衛星上でAIを用いてダークシップなどのターゲット物体を検知し、それらの物体が存在する領域のデータのみを地上に送信します。

例えば、ある船が港を出発した際にAISによって識別されたものの、航行中にAISをオフにしたとします。このような場合でも、AIRISは地球観測カメラが捉えた画像からオンボードAIを利用してこの船を検出することができます。

 さらに、AIRISは地上から「再学習」されたAIモデルを受信し、オンボードAIを更新することが可能です。これにより、軌道上でAIをアップデートすることができ、より精度の高いデータ処理が実現します。

人工衛星から検知結果のダウンリンク及び地上からAIアップデートが可能に

経済安全保障におけるAIの役割

AIRISは、JAXA革新的衛星技術実証プログラムの実証テーマの一つに選定され、2025年度に軌道上実証を行う予定です。三菱重工によると、この技術が最初に利用されるのは経済安全保障の分野であり、海洋における不審船の検出に利用できます。

違法、無報告、無規制の漁業活動による漁獲量は年間最大2,600万トンにのぼり、その結果として最大230億ドルの経済的損失が発生しています。それを考えると、経済安全保障が優先されることが理解できると思います。この技術はより広範囲に適用でき、三菱重工はこの検知能力を将来的には航空機や車両など、他の対象にも拡大することを想定しています。

現時点においてはAIRISによって海洋監視が大きく進展し、公海上におけるダークシップの追跡能力と違法行為の抑制能力が強化されることが期待されます。

マデリン・ノース

マデリン・ノース

イギリスの主要な出版社でライター・編集者として活躍。これまで約30年のジャーナリズム経験を有している。