世界の製造業の復活を支えるフォークリフト

2023-06-30
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世界中で、多くの国が製造業回帰に向かっています。先進国の多くはサービス産業に力を入れ、製造業は他国にアウトソーシングしていましたが、地政学的な緊張によるサプライチェーンの断絶に直面し、空洞化した産業を国内に戻そうとしています。また、国内で広がる格差を是正するために、「良い仕事」を生む製造業の魅力が見直されています。

加えて、日本や欧米では環境技術、ロボット工学、ナノ材料などの将来有望とされる新興分野のリーダーになることを目指し、先進技術分野への投資を支援する法案が立て続けに成立しています。クリーンエネルギー移行のための環境技術への投資を奨励する米国のインフレ抑制法や欧州連合(EU)のREPowerEU協定、そして半導体の復権を目指す米国のCHIPS法や日本による半導体産業への補助金などがあります。

幅広い製品ラインナップと海外展開

こうした先端分野への投資、そしてeコマースの興隆を背景に、工場や倉庫、物流センターなどが次々と建設され、これまでにないほど物流サービスの需要が生まれており、鈍化の兆しはほとんどみられません。

このような施設において、多種多様な形状・大きさの製品や部品、設備を移動させるためにフォークリフトなどの物流機器が必要です。その結果、2,000億ドル規模の物流機器市場は、パンデミックの終息後から活況を呈しており、今後10年間、毎年6%近くという健全な成長を続けると予想されています。

物流機器には、フォークリフトの他、自動倉庫やコンベアなどの多種多様な機器があり、各機器を製造するメーカーが数多く存在しているため、物流機器の市場は細分化された市場と言えます。三菱ロジスネクストは、この物流機器市場において、グローバルに事業を展開している数少ない総合物流機器メーカーです。世界シェアは5~6%ですが、シェア10%を超えるアメリカとシェア35%の日本での事業が強く、収益の約70%は日本以外の国で生み出されています。

当社は伝統ある物流機器メーカー4社を核として2017年に発足しました。現在、エンジンおよびバッテリーフォークリフトから、無人搬送車、港湾でコンテナを移動できる40トン級フォークリフトまで、幅広いラインナップを取り揃えています。また、世界で14の生産拠点を展開しており、100カ国以上に販売しています。

当社のフォークリフト事業は、2013年のニチユとの合併により確固たる事業基盤を確立しました。ニチユは日本で初めてバッテリーフォークリフトを開発、1971年には世界初の無人フォークリフトを開発した業界のパイオニア的存在です。現在、当社のフォークリフトの半分以上がバッテリー式で、無人搬送車(AGV)無人フォークリフト(AGF)も充実したラインナップを揃えています。

電動化と自動化

物流を取り巻く課題として、脱炭素の実現の他、物流量の増加に伴う人手不足や労働負荷の増大など社会的課題が深刻化しています。同時に物流の小口化・細分化・迅速化へのきめ細やかな対応も求められています。こうした課題のソリューションとして、フォークリフトの電動化と自動化が進展しています。電動化はCO2削減といった環境性能だけでなく、騒音や排ガスの低減など、多くのメリットがあります。また、自動化には省人化や生産性の向上、作業環境の改善などのメリットがあります。しかし、その進展度合いは地域差が大きく、いずれも欧州が先行しており、中国は今後の進展が待たれます。今後10~20年の間に、大型モデル以外はすべて従来のエンジンフォークリフトからバッテリーフォークリフトに切り替わり、電動化はより一般的になると考えられています。

無人フォークリフト(AGF)
無人フォークリフト(AGF)

今日のAGVは比較的単純なタスクしか実行できませんが、三菱重工グループのΣSynX(シグマシンクス)のようなあらゆる機械を連携させるミドルウェアの進展により、自動化が進む工場や倉庫の全区画を1人のオペレーターが管理することも想定できます。それは、タブレットやスマートフォンを介して実現されるかもしれません。

今後の成長に向けて

三菱ロジスネクストは、パンデミック以降の物流機器への旺盛な需要に対し、幅広い製品ラインナップで対応し、受注残はおおむね好調に推移しています。しかしながら、半導体などの部品の逼迫や供給の遅れにより、生産の落ち込みやリードタイムの長期化などの課題にも直面したことから、更なるサプライチェーンの強化と多様化を推進してきました。

こうした対応を行った結果、2023年3月期の売上高は前年比約32%増の6,154億円と過去最高を記録することができました。今後は最重要市場である米国と成長が期待できるアジアでの成長を目指し、事業基盤である日本と物流の最先端を行く欧州では安定かつ着実な成長を目指していきます。

フランチャイズディーラーは流通戦略上重要な位置を占めていますが、同時に各地域のお客様との直接の接点を構築し、製品提案からアフターメンテナンス、付帯サービスまで一貫して提供できる体制も整えています。

一方で、三菱ロジスネクストは、物流機器メーカー4社の経営統合により誕生しましたが、各社それぞれが国内外における強みを持ち、ブランドに愛着を持つお客様もいるため、現在も三菱、TCM、ユニキャリア、ニチユ、CAT、Roclaなど、市場に応じて複数のブランドを展開しています。今後は、経営統合のシナジーを一層高めるためにも、“Logisnext”をコーポレートブランドとして活用し、三菱ロジスネクストの企業としての知名度を上げることを目指します。

同時に、当社は、燃料電池車から、より大きな小売店や高度な物流センターなどの新しい環境で使用されるAGVに至るまで、常に技術開発や新しい用途の研究を行っています。また、三菱重工グループが他の多くの製品で提供しているのと同様に、安全性の向上、故障予知、予防保全など、製品のサービス向上に役立つ多くの機能を当社のモデルに付加しています。

製品・技術開発における三菱重工グループの一員であることの強みと同時に、独立した会社としてのメリットも当社の経営陣は大事にしています。機敏で迅速な意思決定によって、急速に進化する市場に適応する能力は、これまでもそしてこれからもビジネスを成功させるための重要な要素なのです。

最後に、三菱ロジスネクストには、世界中のパートナーと協力しながら変化と成長を続けてきた歴史、そこで培われた互いを尊重する文化があります。これまで築いてきた独自の文化も大切にしながら、急速に変化する物流ニーズに合わせて、今後もタイムリーかつスピーディーに進化して持続的な企業価値の向上に努めます。

間野 裕一

間野 裕一

三菱ロジスネクスト株式会社 代表取締役社長

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