青い海を渡るグリーン燃料:船舶による脱炭素化への貢献

2022-11-14
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日本の造船会社が中国や韓国との競争に打ち勝ち、生き残っていくには、グリーン(環境に優しい燃料)とブルー(青い海)を融合させなければなりません。そのためにはまず、カーボンフリー燃料を輸送できる船を開発し、次に船自体をそれら新しい燃料に適応させることが必要です。

三菱造船は100年を超える歴史の中で、国内有数の造船会社として、様々な船舶を建造してきています。最近では、海上保安庁の巡視船や多種多様な調査船、さらには、最新鋭の旅客フェリーまで手掛けており、当社の経験と技術をもってすれば、十分対応可能だと考えています。

また、当社はCO2回収・利用・貯留(CCUS: Carbon dioxide capture, utilization and storage)のような三菱重工グループ全体の基盤技術にもアクセスすることができます。将来的には、造船会社にとどまらず、技術プロバイダーおよび海洋システムインテグレーターとして社会に貢献していきたいと考えています。

三菱造船 代表取締役社長の北村 徹
三菱造船 代表取締役社長の北村 徹

CO2バリューチェーンを船舶が「つなぐ」

現在、三菱重工下関造船所では、初のCCUSを目的とした「液化CO2(LCO2)輸送船」(船長72m、タンク容積1,450㎥)を2023年の進水に向けて建造中です。

これに加えて、LCO2輸送船の技術・知見を活用しながら、同時にカーボンフリー燃料であるアンモニア輸送を兼用できる「アンモニア・液化CO2兼用輸送船」もコンセプトスタディーが完了し、製品化を目指しています。エネルギー輸出国から日本への往路では、産業利用または水素への転換の為のアンモニアを輸送し、復路では日本の発電所から回収したCO2を液化して輸送することで、国内外における貯蔵や産業利用のループを形成できます。多くのタンカーや貨物船と違い、空荷の運航をなくすことで、全体の輸送効率の向上が期待できます。

三菱重工グループは、CCUSのCO2バリューチェーンを「CO2NTAIN(とる)」、「CO2NNECT(つなぐ)」、「CO2NVERT(つかう)」の枠組みで整理し、それぞれの分野で取り組んでいます。当社が進めるLCO2輸送船、LCO2/アンモニア輸送船はCO2を「つなぐ」の役割を果たしていますが、三菱重工グループとしても「CO2NTAIN(とる)」において発電所や製鉄所などから排出されるCO2回収技術の実績を挙げており、「CO2NVERT(つかう)」でもCO2再利用などの技術開発やスタートアップへの投資を推進しています。CCUSバリューチェーン全体をカバーする三菱重工グループの技術・知見という強みを生かしつつ、様々なパートナーと共にCO2バリューチェーン構築に貢献したいと思います。

未来のクリーン燃料

海運は脱炭素が難しいセクターの一つと言えます。海運業界の脱炭素化を促進するための研究機関で三菱重工も設立パートナーとして参加している「マースクゼロカーボンシッピング研究所(The Mærsk Mc-Kinney Møller Center for Zero Carbon Shipping)」によると、世界では10万隻の商船が毎年約3億トンの燃料を消費し、これが世界のCO2排出量の3%を占めているとされています。

これを受けて、船舶からの海洋汚染の防止等を任務とする国際海事機関 (IMO) は、海運セクターの温室効果ガス排出量を2008年比で2050年までに少なくとも半減させるという目標を掲げましたが、船舶の耐久年数が20年を超えるなどの事情から、全体の脱炭素化には長いリードタイムが必要であることを、多くの専門家が懸念しています。

しかしながら、状況を進展させることは可能です。現在、下関で建造している船は、コンピューターによる流体力学などの技術を駆使して設計を行い、船体の形状を日々進化させています。その結果、船舶の燃料消費量は10年前より20%程度は削減できています。これに加えて、実際の航海において、風向風速・潮流予測と航路計画を連携させ、経路を最適化することで燃料消費量を低減し、CO2の排出量を減らすことができます。

今後、低炭素またはゼロカーボン燃料が大きな利益をもたらす鍵となるでしょう。すでに新規受注の10-20%が重油から、CO2排出量が大幅に少なく、硫黄酸化物(SOₓ)がほとんど発生しない液化天然ガス(LNG)燃料船に切り替わっています。また、三菱重工グループが開発を進めている洋上用CO2回収システムは、実質的にCO2排出量をゼロにできる可能性があります。

さらに、短距離の沿岸フェリーや小型クルーズ船は、再生可能エネルギーを電源とする巨大な蓄電池を搭載したり、水素燃料電池を動力源とすることも考えられます。コンテナ船やタンカーなど大型船は、CO2を出さない安定的なクリーンエネルギーとしてアンモニア燃料が注目されています。すでにドイツ、スイス、フィンランドの大手船舶用エンジンサプライヤーは、早ければ2024年にも世界初のアンモニア燃料エンジンの開発を完了するとしています。

脱炭素化への課題と機会

各所においてCCUSバリューチェーンにおける技術の実用化に向けた取り組みが進んでいますが、さらなる技術のブレークスルーが必要であり、普及のためのコスト低減、CO2有効活用方法の多様化、関係するインフラの整備や国内外の補助金・制度の整備など、解決すべき課題は多くあります。

こうした課題の解決には、業界や国の枠を超えたコラボレーションが必要です。

三菱造船は100年を超える歴史の中で、多くの荒波を乗り越えてきました。海運のグローバル化や造船の大規模化、さらにグローバル市場での中国や韓国との競争激化など環境が大きく変化する中、造船ビジネスモデルから新たに海事に関するエンジニアリングおよびサービスビジネスなど、従来の事業の枠組みを超えた取り組みを進めています。

当社が主導的な役割を果たすことで、日本の造船業を活性化させ、同時に世界の海事産業における脱炭素化を現実のものにすることができるでしょう。

三菱造船の目指す成長戦略「Marine Future Stream」はこちら

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北村 徹

三菱造船 代表取締役社長

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