グローバル・テクノロジー・ガバナンスの適正化:実践的な視点

2021-03-25
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テクノロジーは私たちの生活にとって、なくてはならないものとなっています。この先、世界がCOVID-19を克服し再起する場面においても重要な役割を担うことになるでしょう。しかし、IoTやAIといった第四次産業革命によりもたらされた高度な新技術を"build back better=より良い復興"のために活用するには、人類の格差、雇用や生活の崩壊、権力の乱用などを引き起こさないように、私たちは強く意識しなければなりません。

昨今、テクノロジー-ガバナンスが重要な課題となっているのはこのような背景があるためです。その一環として、2021年4月に世界経済フォーラム(WEF)の第1回グローバル-テクノロジー-ガバナンス-サミット(以下、GTGS)が東京で開催されます。GTGSでは50を超える政府機関と600社を超える企業のリーダーがオンライン形式で集うことになります。私たち三菱重工も今回参加できることを大変光栄に思います。

フォーラムの目的は、既存技術と将来技術の両方を社会実装するための共通ガイドラインを策定することです。このガイドラインは、技術の進歩と革新を停滞させることなく、一連の「ガバナンスの遅れを迅速に解決」しようと対処するものです。また、今回のGTGSでは、業界と政府間の対話だけではなく、国際機関-起業家-学界および民間組織も交え広く協議します。これまでは、限られた範囲の意見に基づいて規制やルールが策定されるケースが多かったので、これは大きな変革です。日進月歩で進化する技術分野において、そのスピードについていけないような制約を課すことは新たなアイデアを抑圧することでもあり、あってはならないことです。

私はここに三菱重工グループが果たすべき重要な役割があると考えています。当社は、発電-輸送ネットワークから、防衛-宇宙システムに至るまで、世界において最先端のインフラに技術を提供しています。当社の顧客は、障害やダウンタイムを許容できない非常に高い基準を必要とし、そこにはシステムの適切なセキュリティとプロトコルが不可欠です。顧客、そして我々のようなサプライヤーは、コストを削減しながら性能を向上させるために、絶えず技術を革新し、開発しなければなりません。

すなわち、技術開発に求められる新しい規制やルールは、リードタイムが短く、社会的コストを抑え、運用における柔軟性を備えた、シンプルで実装しやすいものでなければならないのです。当社は、フォーラムの一員として、政府関係者をはじめとするステークホルダーの皆様に、このような実践的な視点からの意見をお伝えできると考えています。

私たちが向き合うべき課題はこれだけではありません。なぜなら、世界各国の政府にとっての優先順位はそれぞれ異なるため、グローバルに統一されたテクノロジー-ガバナンス基準を策定することは容易なことではないからです。しかし、COVID-19の世界的大流行や気候変動問題への対応を通じ、危機的な状況において人類は団結できるということが明らかになりました。同じように、今回の議題であるテクノロジー-ガバナンスにおいても、私たちは団結できると信じています。

例えば今から約1年後に、世界中の多くの経済界や産業界が受入れ可能な共通ガイドラインを策定できているとすれば、GTGSのガバナンス基準策定は成功したといえるでしょう。それは80点の内容でも十分と言えるかもしれません。

全ての人が新しいガイドラインに全面的に賛成いただけるわけではないでしょうが、技術が進化し続けるのと同じように、人の考え方も進化し続けていくものです。顧客にとっても、企業にとっても、このような新しいルールは短期的にはコスト負担となるかもしれませんが、一方で、共通の基準を持つことは、長期的にカーボンニュートラルの達成、モビリティの向上、より安全な環境の創出など、世界中の重要な課題を解決するために必要な製品開発を大きく促進させるチャンスをもたらしてくれるはずです。

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伊藤栄作

三菱重工 常務執行役員兼CTO

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