未来志向の経営:三菱重工の持続的成長に向けた計画
「三菱重工は、成長モードに入った。」
これは、5月下旬に発表した2024事業計画(2024~2026年度の中期経営計画)に込めたメッセージです。具体的には、今後3年間で、売上は20%増の5.7兆円以上、事業利益は60%増の4,500億円以上、ROE(自己資本利益率)は12%以上とすることを目指しています。
達成するという自負があるからこそ、目標として公にできるのだと考えてください。
本事業計画に先立ち、5月上旬に、受注・売上とも過去最高となった2023年度の決算実績を発表しました。2020年代初めの厳しい状況から回復し、財務基盤と経営基盤を強化した今、三菱重工は飛躍的な成長を遂げる準備が整ったと言えます。
事業計画:三菱重工の戦略ロードマップ
詳細に入る前に、三菱重工にとっての事業計画の意義を説明します。簡単に言えば、事業計画とは、当社の戦略ロードマップです。経営幹部は、本計画を指針に経営にあたり、提示した財務目標にコミットメントするのです。また、投資家や証券アナリストに対しては、本計画を通じて、当社の本質的な価値を伝えています。例えば、当社の多角的事業経営は、産業の構造を踏まえた合理的な戦略に基づきビジネスラインを構成しているものであり、いわゆる「コングロマリット・ディスカウント」論には乗りにくいことを丁寧に説明しています。さらに、世界中の8万人の従業員に向けて、共通の方向性を示すものでもあります。タウンホールミーティングや社内のツールを通して、より詳細に内容が説明され浸透していきます。
このように、社内外で活用することによって、長い歴史の中で培われた技術に最先端の知見を取り入れ、エナジートランジションから国家安全保障まで、変化する社会課題に挑み、人々の豊かな暮らしを実現するという三菱重工のミッションを、より確実に推進していきたいと考えています。
重点領域:機会を捉え、成長を加速させる
では、今後3年間で成長を見込んでいるのはどの領域でしょうか。最も大きく成長することが期待できるのは、利益とキャッシュの生成に、外部環境から自ずと期待のかかる「伸長事業」です。このカテゴリーには、当社が世界をリードしているガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)、そして原子力、防衛事業が含まれます。
今日、電化と脱炭素化を加速するために、クリーンで安定し、かつ柔軟性の高い電力の需要が増大しています。また、地政学的な緊張が高まる中で、政府の防衛支出も急増しています。このような背景から、「伸長事業」の追い風的事業環境を活かして行きます。
同時に、将来の「成長領域」への投資も継続していきます。このカテゴリーには、まずは、水素・アンモニアバリューチェーンおよびCCUS(CO2回収・利用・貯留)バリューチェーンの開発が含まれます。これは、長期的で戦略的な取り組みであり、この領域の究極的な将来性は不確実です。規制の動向や、政府のインセンティブなど、当社のコントロールの及ばない要因によって往々にして影響を受けます。だからこそ、私たちは科学的根拠に基づき、情緒的議論からは一線を画して、それらの要因変化を評価し続ける必要があります。
この領域で大きな利益を上げられるようになるのは、おそらく本事業計画の期間を超えた後になるでしょう。しかし、三菱重工はエナジートランジションの「先導者」として、顧客ニーズを先取りした投資と技術開発を行わなければなりません。これは、なぜ2040年をターゲットにした「MISSION NET ZERO」を宣言したのか、その背景にある理由でもあります。そして、当社は宣言に基づき、着実に活動を実践しており、当社の三原製作所におけるスコープ1および2の97.7%削減や、水素ガスタービンの開発が例としてあげられます。さらに、米国ユタ州では、2025年から隣接する発電所に水素を供給し、水素混焼発電を実現する計画に向けて、巨大な水素貯蔵ハブプロジェクトに参画中です。
今年4月に、新たな事業領域をまとめる「GX(グリーントランスフォーメーション)セグメント」を創設しました。これは、成長領域における当社の戦略的な取り組みの証であり、エナジートランジション関連事業間のシナジーをさらに促進させる狙いがあります。
当社は、エネルギーの供給側だけでなく、エネルギーの需要側のソリューションにも投資をしています。その代表的なものが、データセンター向けの電力・冷却装置の提供です。三菱重工は、この成長分野でも主要プレーヤーとなることを目指しています。
変革への投資
このような将来性のある市場で競争するためには、多額の投資が必要です。キャッシュフローの大幅な改善を原資に、今後3年間で、「伸長事業」および「成長領域」への投資を、6,500億円に倍増します。近年、研究開発組織の運営をより小規模で機動的な単位によるスピーディーな姿に再編したことから、広範な技術分野に対して資金を効率的に投資し、より多くの製品を迅速に開発できるようになっていることも当社の強みです。
一方で、上記に特筆した以外の三菱重工の他の事業群も、安定的かつ効率的に業績をあげていなければ、このような投資は不可能です。インフラシステム、物流、空調、航空宇宙などの事業は、グループを強化し、また、それぞれの事業自体が成長し続けるために、これまでと同様に、これからも重要です。
CSO(最高戦略責任者)としての私の重要な役割は、すべての事業部門が成長目標を策定・達成することを支援し、この巨大で多様な組織全体で、アイデアやベストプラクティスを共有し、人材の交流を促進することです。
今後3年間、事業計画を遂行するにあたり、財務目標の達成や未来に向けた投資はもちろんのこと、長期的な成功の基盤となる技術ノウハウや人的・知的資本の強化にも力を入れます。これらの取組こそ、三菱重工の目指すネットゼロの実現とより安全・安心・快適な社会の構築の根源をなすのです。
三菱重工の戦略ロードマップ「2024事業計画(2024~2026年度の中期経営計画) 」はこちら(PDF)