水素による電力の脱炭素化
石炭火力発電から、再生可能エネルギーと天然ガスを組み合わせた発電へと移行する国が増える中、脱炭素化の次の段階に疑問を抱く人々がいます。
Mitsubishi Power Americasの社長兼CEOのPaul Browningは、電力分野における脱炭素化の次の段階となる、エネルギー貯蔵・発電のための技術開発を指揮しています。
現在、三菱パワーはMagnum Development社と共同で、ユタ州にある広大な地下岩塩洞窟を世界最大級のエネルギー貯蔵施設へと転用する「先進クリーンエネルギー貯蔵プロジェクト」に取り組んでいます。近くのIntermountain発電所では、石炭火力発電所を天然ガスと30%の水素の混合燃料で運転する発電所に更新する計画を進めており、2045年までに水素の割合を100%にすることを目指しています。
Paul Browning氏に、ネット・ゼロに向けたビジョンと脱炭素化の次の段階について説明してもらいました。
Q. 脱炭素化の次の段階とは、どのようなものでしょうか?
いくつかの電力セクターで、脱炭素化の次の段階へ移行する準備ができているのは素晴らしいことです。現在は、全ての石炭火力発電を廃止するとともに、発電に使用する天然ガスを減らす準備をしています。再生可能エネルギーを貯蔵し、必要に応じて電力を供給できる手段として、今後は水素が重要になるでしょう。
Q. ネット・ゼロ・エミッションを達成するために、エネルギー分野ではどのような技術革新が必要でしょうか。
今日、電力系統の需給バランスを保つ上では天然ガスが重要な役割を果たしています。ガスの使用量を削減するには、まずは再生可能エネルギーの貯蔵を実現する必要があります。そのため、「貯蔵」に関する技術が今後、重要性を増してくるでしょう。現在、短時間の貯蔵においてはリチウムイオン電池の活用が進んでいますが、長期間の貯蔵には向きません。そこで水素が登場します。電力需要が少ないときには、余剰の再生可能エネルギーを使った水の電気分解によって水素を取り出し、貯蔵することが可能です。その後、この「グリーン水素」を複合サイクル発電所で使用し、必要に応じて電力に変換します。グリーン水素は、岩塩空洞に貯蔵することによって、費用対効果の高い方法で長期間貯蔵することができるのです。
Q. 今後のエネルギー分野において、「長期貯蔵」はなぜ重要なのですか?
よく知られているように、太陽光発電は日中に行われており、電力は夜間に使用するために貯蔵しておかなければなりません。しかし天候や季節によって、電力の需給は週ごと、月ごと、季節ごとに大きく変動します。そのため電力を長期貯蔵しておく必要があるのです。
Q. 脱炭素化は、電力産業にどのような影響を与えますか?
太陽光発電、陸上・洋上風力発電、水力発電、その他の再生可能エネルギー源は、大量の電力を供給しています。コストの低下により、これらの再生可能エネルギーはますます魅力的なものになっています。しかし、上述した再生可能エネルギーの間欠性(天候に左右され、供給量が一定でない問題)ゆえの、発電した電力を長期にわたり貯蔵するという課題については、単に再生可能エネルギーを増やせば解決できるものではありません。発電に水素を使う目的は、余剰の再生可能エネルギーを水素に変換することで貯蔵し、必要な時に利用出来る点にもあります。現時点では、水素を製造するには高額な費用がかかりますが、太陽光、陸上風力発電、リチウムイオン蓄電池が規模の拡大に伴いコストが低減したのと同様に、今日の小規模な電気分解をスケールアップしていくことで、水素のコストは削減できる見込みです。
Q. 発電用燃料としての天然ガスと水素にはどのような関係がありますか?発展の見込みはありますか?
再生可能エネルギーの補助燃料として、天然ガスが石炭に取って代わったように、やがて水素が、クリーンな代替燃料として普及するでしょう。
しかし、天然ガスは発電燃料であるのに対し、水素は発電のみならず電力を貯蔵できる燃料であるという根本的な違いがあります。電気分解の規模が拡大し、水素の貯蔵・輸送ネットワークが構築されれば、電力の需給バランスをとるための燃料として、天然ガスからグリーン水素への移行が進むでしょう。
三菱パワーは、天然ガスと水素の両方を用いて発電できる技術を開発しました。水素の割合を増やすことにより、天然ガスからより一層クリーンな燃料への移行も可能になります。現在、多くの天然ガスを使っている発電プラントでも、将来的には既存のプラントで、水素の利用を高めていくこともできるのです。
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