脱炭素を牽引するコンプレッサ
数百年前に発明された技術が、未来の脱炭素社会実現に向けてきわめて重要な役割を果たそうとしています。コンプレッサ(圧縮機)は、18世紀中頃の産業革命期に誕生し進化してきましたが、水素バリューチェーン構築などの脱炭素化においても、大きな役割を果たすことが期待されています。
コンプレッサとは?
コンプレッサは圧力で気体を圧縮し、その圧縮した気体を送り出す装置です。実は、人間の肺も圧縮装置に似ています。産業革命期、化石燃料の利用に伴って機械式のコンプレッサが誕生し、現在では多種多様な用途で使われています。
コンプレッサを圧縮方式で分けると、回転の遠心力により圧縮するターボ型、ピストンなどの往復運動で圧縮するレシプロ型などに分けることができます。
コンプレッサ市場はニッチ市場と言えますが、その用途の多様性もあり、周辺装置やアフターサービスを含めれば、市場規模は年間約300億ドルに及びます。
三菱重工グループでは、三菱重工コンプレッサ株式会社(MCO)がコンプレッサを製造・販売しており、産業用のコンプレッサに力を入れています。主要顧客は、主にOil&Gasメジャーや化学会社などです。MCOのコンプレッサは、石油・ガスの抽出、処理を行う生産現場(上流)だけでなく、輸送パイプライン(中流)、化学工場でのアンモニアやエチレン生産(下流)までカバーしています。
三菱重工グループでは、1917年に初号機の遠心コンプレッサを製造して以来、これまでに累計4,000台以上のコンプレッサを64カ国に納入した実績があります。その歴史の中で、2000年に国内のコンプレッサ製造拠点を広島に集約し、2010年には迅速な意思決定が行えるようコンプレッサ事業を分社化し、MCOを発足させました。製造拠点は広島ですが、売上の90%が海外で、米国、英国、サウジアラビア、シンガポール、中国、ブラジル、韓国にエンジニアが常駐してサービスを提供しています。特に、主要顧客が集まる米国のヒューストンにはMHIコンプレッサ・インターナショナル(MCO‐I)を設立し、補修設備も有して顧客密着型のサービスを提供しています。
コンプレッサ市場の現在と未来
化学プラントでは、複数の大型コンプレッサがタービンまたはモーターに接続され、全長は30メートルを超えるものもあります。MCOではそれぞれのプロセスで求められるニーズに対応した、高性能で信頼性の高いコンプレッサを提供してきた実績があります。
MCOのコンプレッサは、10年以上の連続運転が可能で、メンテナンスが非常に容易なものがあります。内部清掃が必要な特定用途向けに、独自の油洗浄機構を開発し、運転中に洗浄することで、最大効率で長期間の運転を可能にしております。
コンプレッサ市場は、歴史が長い伝統的な市場ですが、近年、天然ガスや化学品の需要増加に伴い、市場が急拡大しています。また、コンプレッサはクリーンエネルギーである水素やCO2の回収・貯留・転換利用(CCUS)技術の担い手としても注目され、脱炭素化に大きな役割を果たすことが期待されています。
水素は、水素発電の他、脱炭素化が難しい産業や長距離輸送車両の燃料としての需要拡大が見込まれていますが、水素の製造・輸送・貯蔵・利用の各工程において、水素を圧縮するコンプレッサが必要です。大容量かつ高効率のコンプレッサは水素バリューチェーンを構築するためのキーコンポーネントと言えます。
水素社会に向けた課題の解決
三菱重工グループでは、カーボンニュートラルの実現に向けてエナジートランジションを推進しており、その一環として、水素の製造から輸送・貯留・利用を含むバリューチェーン構築に取り組んでいます。米国のユタ州では太陽光などによる発電で水を電気分解して水素を製造し、岩塩空洞に貯蔵するAdvanced Clean Energy Storageプロジェクトを推進しています。また、温室効果ガスの排出量が多い製鉄セクターにおいても石炭やコークスベースから水素ベースの製鉄プロセスへの転換を進めています。
水素バリューチェーン構築に向けて克服すべき課題は多くあります。水素は宇宙で最も軽い気体であるため、コンプレッサの回転部分であるインペラを通常のガスよりも高速で運転させる必要があります。そして、水素によるコンプレッサ内部の金属の脆化を防ぐ技術も必要です。
MCOでは、こうしたエンジニアリング上の課題を解決することで、三菱重工グループが進めるエナジートランジションに貢献していきます。
三菱重工グループのエナジートランジションをリード
お客様はMCOから機器を購入するだけではもはや満足されなくなっています。end-to-endパッケージを望む声も高まっており、アフターサービスの充実の他、顧客が運転、保守ができるようトレーニングコースを設置しています。
更に、圧縮機においては、使用するガスの種類やコンプレッサの運転速度が多岐にわたるため、難しいタスクとなりますが、「遠隔監視システム」を構築し、不具合が発生する前に通常と異なるサインを発見し、知見を活かした分析を行うことで、稼働率向上に貢献しています。
今後も競争力のある製品と顧客ニーズに対応したサービスを提供すべく、MCOは進化を続けてまいります。
MCOはOil&Gasメジャーや化学会社を始めとした顧客との強力な信頼関係があり、水素ガスタービンやCCUS技術をリードする三菱重工グループの一員という強みがあります。CO2削減にはコンプレッサだけでなく、様々な技術を組み合わせたサプライチェーンを構築することが不可欠です。MCOの強みを活かし、エナジートランジションの橋渡し役としてカーボンニュートラルの実現に貢献していきます。
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