クラウドのクリーンアップ ~世界のデータセンターの脱炭素化~

2024-03-19
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インデックス

近い未来に、今のクラウドでは容量が不足し、処理速度が遅過ぎる時代がくるでしょう。

クラウドは、相互にサーバーを接続した世界的なネットワークで、膨大な量のデータを処理、保存しています。そのデータ量は、1,000億テラバイトを超えるとの試算もあります。クラウド上でアプリケーションが実行され、ストリーミング動画やウェブメール、SNSなどの幅広いコンテンツが配信されています。

ChatGPTなどの急速に普及し始めた人工知能(AI)アプリケーションの稼働、さらには機械システムの自動自律化ソリューション、自動自律運転車のサポート、遠隔医療などに対応するには、サーバーの処理能力の向上や保存容量の増大、レイテンシー(遅延時間)回避のための高速化が必要不可欠です。

こうした予測が、最新のサーバーで構成されたデータセンターの建設ブームを後押ししています。調査会社のP&Sインテリジェンス社によると、世界のデータセンター市場は、2022年に40兆円を超える規模に成長し、その後は年率11%で成長しています。2020年代の終わりには、90兆円の規模に達すると予想されています。

そこで問題となるのが、データセンターがサーバーの稼働に加え、冷却にも大量の電力を消費するということです。世界エネルギー機関によると、データセンターから排出される温室効果ガスは世界の排出量の約0.6%を占めており、データセンターの消費電力の割合は、世界の消費量の約1%に相当します。また、データセンターの電力消費量の最大30%が冷却のために使用されています。

データセンターの増加および大規模化に伴い、今後も電力消費量は急増することが予想されています。サーバーに搭載される標準的なチップの電力消費量は、電球1個とほぼ同じ75~200Wです。しかし、AIアプリケーションに不可欠なNvidia社のGPUなどのAIチップは、5~10倍の電力を必要とし、同時に5~10倍の熱を発します。標準的なハイパースケールデータセンターの電力消費量は、現在は30~40MW程度ですが、3~5年後には数百MWを超えると予想されています。実際、100MWを上回るデータセンターの建設が既に始まっています。

冷却

データセンターの大規模化と電力消費量の増大に伴い、エネルギー効率の向上と脱炭素化のニーズが急速に高まっており、これは同時にビジネスチャンスでもあります。三菱重工グループは、発電設備や冷熱技術、制御システムに強みがあり、それら全てを統合できるエンジニアリングの知見を有しています。こうした長年培った技術と経験という事業基盤を強みに、データセンターが直面する課題に対応しています。

一般的に、サーバーの多くは大量の電力を消費するチラーによる空気冷却方式が採用されています。最新のターボ冷凍機を設置すれば、高効率・大容量となり、電力消費量の大幅な削減が可能となりますが、新型のAIチップはさらに高出力化・高温化しており、現状の空気冷却では限界があります。これに対応するために、オイルや液体冷媒を活用した次世代冷却システムの開発が進んでいます。中でも実用化が期待されているのが液浸冷却システムです。文字通り、液体で満たされた容器に複数のサーバーを浸して冷却します。当社では、液浸冷却システムのソリューションを開発し、KDDIが所有するデータセンターで試験運用を行いました。その結果、2023年2月、従来型のデータセンターと比較し、サーバー冷却のために消費される電力の94%削減を達成しました。

冷却や電源のさまざまなオプションを備えたサステナブルなデータセンター
冷却や電源のさまざまなオプションを備えたサステナブルなデータセンター

液浸冷却システムは、サーバーを冷却容器から引き上げて排水や洗浄を行う必要があるため、保守に時間と手間を要するなどの課題があります。保守性の点では、次世代冷却システムの中でも、二相式ダイレクトチップ冷却システムに優位性があると言えます。これは、サーバー内のプロセッサーに金属製のコールドプレートを設置し、そのプレートに冷媒を供給することで、発熱するチップを効率的に冷却するものです。この冷媒は誘電率が低いため、万が一冷媒が漏れた場合もサーバーへの影響は最小限に抑えられます。また、既存のラック内で完結できるため、サーバー室の改修が最小限で済みます。当社は2023年9月、二相式ダイレクトチップ冷却のパイオニアであるスタートアップ企業のZutaCore社に出資し、同社の技術を販売する戦略的提携契約を締結しました。この提携により、当社の製品・技術とZutaCore社の技術とを掛け合わせ、高性能サーバーを活用するデータセンターのお客様に当社ブランドのソリューションとして提供できるようになりました。

発電

データセンターで使用する電力の脱炭素化ニーズに対して、当社は規模に応じた多様な脱炭素化ソリューションを揃えています。小規模なデータセンターや遠隔地のデータセンターには、太陽光などの再生可能エネルギーと、蓄電設備、非常用発電機を組み合わせる当社のEBLOXのようなトリプルハイブリッド発電システムの導入を検討することもできます。

中規模のデータセンターは、将来的に水素で発電するガスエンジンの利用も可能です。大規模データセンターであれば、高効率ガスタービンを搭載した大型コンバインドサイクル発電システムの導入が可能です。当社のガスタービンは、天然ガスと水素の混焼運転が可能であり、近い将来にはCO2を排出しない100%水素燃焼での運用を目指しています。

更に、データセンター全体の最適化にも期待が高まっています。データセンターの最適化には、「ホワイトスペース」(コンピューター室)を制御するソフトウェアと、「グレースペース」(電力設備や冷却設備)を制御するソフトウェアを統合したマネジメントシステムが求められます。当社では統合制御システムの提供を目指し、2023年7月にドイツのFNT社と協業契約を締結しました。当社の強みであるエネルギーマネジメント技術とFNT社の強みであるITインフラマネジメントを融合させ、データセンター向けの新たな統合ソリューションの開発を進めています。

ビジネスの構築

当社は最先端の製品と、データセンターのあらゆるユーティリティのニーズに対応するワンストップソリューションを提供することを目指しています。また、お客様は、現場に迅速かつ的確に対応できるサービスネットワークを求めています。強靭なサービスネットワークを持つことは当社がお客様に対して、長期的にご支援するという強い意思表示であり、お客様の事業にとっても非常に重要なことです。

その一環として、先日北米にて保守・サービスを提供しているコンセントリック社を買収しました。

データセンター、ユーティリティ、電動フォークリフト向け電源システムソリューションを提供するコンセントリック社は、全米58拠点に約1,000人のスタッフで販売・サービスネットワークを構築しています。

新たなビジネスを構築するためには、様々な技術や機能など社内にある幅広い知見を素早く束ね、加えて外部パートナーとのタイムリーな提携と連携が業界のスピードに乗り遅れないためにも重要です。

データセンターは日進月歩の進化を続けています。クラウドベースの大容量データセンター以外にも、今後はエッジデータセンター市場という新たな市場も出てきます。機械システムの自動化など大容量かつ高速な通信システムを実現させるために、クラウドとエッジデータセンターが組み合わさった新たなシステムや、工場や遠隔地でも活用できるデータセンターです。当社も12フィートのコンテナに入った高性能(高温)サーバー群で、あらゆる場所に運ぶことができるコンテナ型データセンターの取り組みを開始しています。大規模なデータセンターがビッグデータの処理と保存にますます重点を置くようになる中、こうしたエッジデータセンターは、オンサイトで迅速な処理タスクをこなすために拡張可能で、最終的にはクラウド自体を分散化することができます。

この業界は今後も決して停滞することはないでしょう。

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五味慎一郎

五味慎一郎

三菱重工業株式会社 成長推進室 データセンター事業推進グループ長

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