サステナブルな三菱重工の財務戦略

2023-09-15
Hisato Kozawa, Chief Financial Officer of MHI

三菱重工は、製品や技術を通じて、よりサステナブルな社会の実現に貢献することをミッションとしています。その中でも、世界の脱炭素化に向けた取り組みは最も重要なものです。

このミッションを遂行するためには、当社自体も「サステナブル」であることが必要です。継続的に利益を上げキャッシュを生み、不安定な外部環境にあっても、原価を適正に管理し、サプライチェーン全体に目を配り、優秀な人材を惹きつけなければなりません。また、有望な成長分野に継続的に投資をするだけの強固な財務力を維持する必要があります。その責任を担っているのが財務部門だと言えます。

当社グループは2021年10月に、カーボンニュートラル実現を目指す「MISSION NET ZERO」を宣言しました。これは、国や業界の目標よりも10年早く2040年までに、CCUSによる削減貢献分を加味した上で、Scope1からScope3のネットゼロを目指すものです。実現のために、CO2削減に貢献できる製品、技術、サービスの開発を加速していますが、財務部門でも「MISSION NET ZERO」の実現を推進する取り組みを行っています。

ESGファイナンスの活用

当社では、環境・社会課題に対する資金調達を目的としたESGファイナンスの活用に力を入れています。

2020年11月から現在までに、グリーンボンドトランジションボンドをそれぞれ2件発行し、水素やCO2回収などのクリーンテクノロジーへの投資のために、総額600億円を調達しました。さらに、当社の取り組みは国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成にインパクトを与える活動との評価を受け、三菱UFJ銀行とポジティブ・インパクト・ファイナンスの融資契約を締結しました。

このような「資金の使途」を定めた債券やローンは、特定の低炭素技術に資金を投入するように促す他、その主要なパフォーマンス指標を定期的に開示することにより、経営陣や外部のステークホルダーが進捗を具体的に確認できるようになっているという特徴があります。

ESGファイナンスは通常の手法に比べ一定の手数を要しますが、その結果、私たちは通常より低い資金調達コストを実現できていると考えます。明確な数字があるわけではなく感覚的なものになりますが、当社のサステナビリティ関連社債の発行レートは、当社や同業他社の普通社債と比較すると格付けで1ノッチ上と同等以上になっているようです。例えば、当社が2021年に発行した2回目のグリーンボンドのクーポン(利息)はわずか0.09%ですが、低金利下の日本国内の水準から見ても非常に低いものであったと言えます。

脱炭素化技術への投資には、高い収益性と強固な財務基盤が必要
脱炭素化技術への投資には、高い収益性と強固な財務基盤が必要

また、これらの取り組みを通じて、投資家の方に当社を脱炭素社会の実現に貢献する企業として認識してもらうことも意図しています。これは当社の存在価値・存在意義を「サステナブル」なものにするために重要なことです。

新しい投資家を獲得する

「グリーンでない」と見なされた産業から、ESGやサステナビリティ関連ファンドなどへ資金が流入するにつれ、同様の傾向が株式市場でも顕著になっており、当社は、クリーン技術のサプライヤーとして恩恵を受け始めています。

2023年に入り、為替円安とコーポレートガバナンスに関する日本の進展を踏まえ、投資家が他のマーケットから資金を移したことによる日本株ブームに沿うように、当社の株価も上昇しました。

しかし実は、当社の株価は2022年初から上昇基調にあります。世界トップシェアを誇る先進ガスタービン、CO2回収システム、水素やCO2エコシステム構築への投資、原子力発電への関心の高まりや防衛予算の増額など、当社の事業は、世界の主要な課題の解決に深く関連しており、投資家もその点を認識しています。

当社は、何年も世界の代表的ESG投資指標の構成銘柄に選ばれ続けてきましたが、最近は少し状況が変化していると感じます。当社がエナジートランジション戦略を明確に打ち出してから約3年が経過しました。投資家は、当社が具体的な取り組みを実行していることを理解し、評価し始めています。実際、より多くのESGファンドが当社株式への興味を持つようになっており、投資家を対象とした事業説明会や工場見学会への関心は高まっています。同時に、従来の投資家もエネルギー安全保障における当社の貢献を再評価しています。

私がCFOに就任した2020年4月と比べて当社の株価は約3倍になりました。また、就任当初から意識してきた株価純資産倍率(PBR)は、この3年で約0.7倍から約1.5倍に改善しました。近ごろ、話題に上る「PBR1倍割れ問題」もクリアしており、良い傾向にあります。

将来に向けた投資

当社は今後も「MISSION NET ZERO」実現に向け邁進していきます。例えば、広島にある三原製作所では、当社の技術を用いて、工場から排出されるCO2を完全にゼロとし、カーボンニュートラル工場を実現します。また、ガスタービンを製造している高砂製作所では、水素製造から、貯蔵、ガスタービンでの発電まで一貫して検証できる世界初の施設の整備を進めています。

財務部門の仕事は、何よりもその投資のためのキャッシュを安定的に確保していくことです。当社は今年度の事業利益率を7%、自己資本利益率(ROE)を11%とする目標を設定していますが、その達成に向けて順調に歩んでいます。足元を見ても、受注や売上収益は増加し、サプライチェーンは安定しています。加えて、材料費や人件費、エネルギー価格の高騰を受けた価格適正化も進んでいます。しかし、現状に満足するわけにはいきません。当社は安定的に2桁のROEを達成する実力があると考えます。 

稼ぐ力を向上させ、負債/EBITDA(税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益)倍率をさらに下げ、財務健全性の維持・強化を進めることで、当社の信用格付け(S&P)を現状のBBB+からA-またはAに改善したいと考えています。期待通りに収益性が改善すれば、累進配当の継続などの形で株主還元を実施しながら、並行して将来に向けた投資ができるはずです。それが、私が真のサステナビリティと考えるものです。

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小澤 壽人

小澤 壽人

三菱重工業株式会社 取締役常務執行役員兼CFO

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