三菱重工三原製作所「和田沖の森」の散策

2025-07-16
A walk through Wadaoki Forest

周囲を海と豊かな緑に囲まれ、風光明媚な筆影山(ふでかげやま)を借景とした三菱重工業 三原製作所の和田沖工場敷地は、一般的な工場環境とは一線を画しています。

広島県にある三原製作所は、蒸気機関車および鉄道車両用空気ブレーキシステムの専門工場として1940年代に設立されました。今日も最先端の交通システムや紙工機械を国内外に提供しています。

瀬戸内海国立公園に近接する三原製作所和田沖工場
瀬戸内海国立公園に近接する三原製作所和田沖工場

同製作所は、カーボンニュートラル実現に向けたパイロットプロジェクトの拠点として、幅広い省エネ・合理化の取り組みを実施しており、CO2排出量は2021年度比で97.7%の削減を達成しつつあります。拠点内でカーボンニュートラルソリューションを検証することで、三菱重工はカーボンニュートラルに向け必要な知見を継続的に獲得しています。

三原製作所の3つの工場のひとつである和田沖工場には「和田沖の森」として知られる8.3ヘクタールの森林地帯があります。これは生物多様性の損失と気候変動が相互に密接に関連するという認識にもとづき創出されたものです。

美しい自然環境に恵まれた同工場は、三菱重工の環境への取り組みにおける最前線でもあるのです。

地域の環境と調和するように創出された和田沖の森
地域の環境と調和するように創出された和田沖の森

活気に満ちた生態系

「涼しくて爽やかな場所です」と、三菱重工HRマネジメント部の間江 愛美(まえ えみ)氏は言います。「自然の音と香りにあふれています。さまざまな鳥のさえずりが聞こえ、足元の土を感じると、工場の敷地内にいることを忘れてしまいます」。

多くの種の鳥が共存する森
多くの種の鳥が共存する森

実際、和田沖の森にはハト、キツツキ、キジなど40種以上の鳥が生息しています。間江氏によると、この場所は周辺の連山や、瀬戸内海から飛来する鳥たちの憩いの場にもなっているようです。

この森林は、多くの植物や動物の活気に満ちた生態系が在する場です。しかし、以前からそうだったわけではありません。そのような空間を作り出すには、何年にもわたる植栽と継続的な維持管理が必要です。

周辺の山や海から飛来する鳥。カニなども生息。
周辺の山や海から飛来する鳥。カニなども生息。

「かつては、ここには全く植生が見られませんでした」と、間江氏は言います。「しかし、1970年代には工場周辺の景観と調和した森づくりを目指し、数多くの苗木や樹木を植え始めました」。

現在、三菱重工は和田沖の森を生息地とする生物をモニタリングし、景観を維持しつつ生物多様性の向上に努めています。

生物多様性への意識の醸成

もちろん、同工場の社員もこの森で時間を過ごします。ちょっとした散策を楽しみ、自然の中でひとときの安らぎを見出すことが日課になっている社員もいます。

散策路で自然に触れ合う
散策路で自然に触れ合う

1990年代初頭には、遊歩道が整備され、その後ベンチや休憩所が整備されました。社員がボランティアで植林活動を行ったことがあるほか、地元の野鳥の会の訪問もあります。三菱重工では森林をより広範な地域社会に向けて開放することも検討しています。

間江氏によれば、このような方法で社員や地元の人々に生物多様性や自然資本に対する意識を醸成することがサイトの継続的な成功に不可欠なのです。

バードウォッチングで希少種に出会うことも
バードウォッチングで希少種に出会うことも

ネイチャーポジティブにおける企業の重要な役割

和田沖の森は、このほど環境省によって、「自然共生サイト」に認定されました。「生態系サービスの提供の場であって、在来種を中心とした多様な動植物種からなる健全な生態系が存在する場」であることが認められたのです。

多くの植生による豊かな生物多様性
多くの植生による豊かな生物多様性

この制度は、民間主導で生物多様性が保護されている地域を政府が認定するものです。これは、2030年までに陸域と海域30%以上を健全な生態系として保全するという国際目標「30by30」に向けた国の取り組みの一環です。

三菱重工にとって、和田沖の森と三原製作所は、企業がネイチャーポジティブとカーボンニュートラルに統合的に取り組むにはどうすればよいかを示すひとつの例と言えるでしょう。

多くの従業員にとって、この森はそれ以上の存在となっています。間江氏の言葉を借りれば、「私たちの心を癒し、安らぎを与えてくれる」特別な場所なのです。

デイビッド・エリオット

デイビッド・エリオット

ジャーナリスト、広報、コンテンツクリエイターとして活躍。これまでに20年以上の経験を有している。