原子力の復興:三菱重工が日本そして世界に貢献
日本では、この数年間で原子力発電に対する考え方が大きく変化しました。例えば、2022年8月に実施された日経新聞の世論調査では、原子力発電所の再稼働への支持が大幅に増え、国民の70%が賛成しています。
これは、2011年の東日本大震災からしばらくの間には、想像もできなかったことです。
一方で、原子力に携わる関係者は、長年、日本が2050年にカーボンニュートラルを達成するためには、原子力発電は不可欠であると考えてきました。原子力は、資源に乏しく、再生可能エネルギーの適地が限られている日本において、ベースロード電源としての役割を担うことができるクリーンで信頼性の高い電源であるためです。
では、何が世論を変化させたのでしょうか。
世論の変化:3つの要因
様々な要因が考えられますが、原子力は運転中にCO₂を排出しない電源であると再認識されたことが間違いなくその一つです。
また、エネルギー安全保障に対する懸念が高まったことも大きいでしょう。ロシアによるウクライナ侵攻に端を発したエネルギー価格の高騰は、1970年のオイルショックと同様に、人々に強い印象を与えました。
特に影響を与えたのは、地域によって電気料金が大きく異なっていることかもしれません。一般消費者は、関西や九州などの原子力発電所が再稼働している地域のほうが、電気料金が安いことに気がつきました。日本では、原子力発電は、化石燃料だけでなく、現時点では風力や太陽光のような再生可能エネルギーよりも安価です。
資源エネルギー庁が2021年に実施した発電コストの検証によると、資本コストや廃炉費用を含めても原子力が安価である事実は変わりません。
2023年には、GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針において、「原子力の活用を推進」することが明記されました。エネルギーミックスにおける原子力の割合は2019年時点ではわずか6%でしたが、第6次エネルギー基本計画では2030年に20~22%とする目標が掲げられています。今後、2025年3月までを目途に発表される第7次エネルギー基本計画では、この目標がさらに引き上げられることを期待しています。
現在:安全な再稼働に注力
三菱重工は、日本の原子力技術を長年リードしてきた企業として、現在、三菱重工が建設を担ったPWRプラントのみならずBWRプラントも含めて、既設原子力発電所の再稼働に向けた安全対策工事や特定重大事故等対処施設(特重施設)(注)の設置を最大限支援しています。
また、再稼働済プラントの安全安定運転に向け、60年超運転も見据えた各種保全工事を計画的に実施しています。
さらに、燃料サイクル確立に向けて六ヶ所再処理工場、MOX燃料加工工場の早期竣工に向けた取り組みも支援しています。これらの施設は、ウラン資源の有効活用(ウラン輸入量の低減)及び高レベル放射性廃棄物の減容化/有害度低減に貢献します。
未来:新型原子炉の開発
将来に向けては、既存の原子力発電所を再稼働させるだけでは、日本はカーボンニュートラルを実現することはできません。今後の新設・リプレースや、将来の多様化する社会ニーズを見据えて、三菱重工では多様なラインアップの革新炉の開発に取り組んでいます。
まずは、日本の優れた電力網を生かし、大量の電力を安定的に供給するため、世界最高水準の安全性を備えた出力120万kWeの革新軽水炉「SRZ-1200」の開発を進めており、2030年代半ばの実用化を目指しています。
また、三菱重工は、小規模グリッドや分散電源向けに、出力30万kWeの小型軽水炉(SMR)の開発も進めています。さらに、大量の水素を安定的に製造することができ、鉄鋼業界など産業界の脱炭素化への貢献が期待できる高温ガス炉(HTGR)、資源の有効活用や高レベル放射性廃棄物の減容化/有害度低減に貢献する高速炉の開発にも取り組んでいます。
並行して、マイクロ炉のコンセプトも策定しました。これは、コンテナに収容可能な大きさの出力1MWe程度のポータブル原子炉で、離島、僻地、災害地用電源などでの利用を想定しています。
最後に、核融合は地上の太陽と称され、恒久的な夢のエネルギー源としてエネルギー問題の根本的な解決に貢献することが期待されています。三菱重工は国際協力のもとフランスで進められている核融合実験炉(ITER)プロジェクトにも参画しています。核融合の実用化には、解決すべき課題が多数あることも事実ですが、長期的な視座に立ち核融合開発に挑戦していきます。
世界への輸出:経験を生かす
原子力の復興は日本だけにとどまりません。EUタクソノミーは原子力発電を「グリーン」な経済活動と分類しており、フランス、英国、オランダなどで約30基の大型炉の新設が計画されています。中国とロシアも新規建設を進めており、米国は独自の革新炉の開発を進めています。その先頭に立っているのが、三菱重工と共同でナトリウム冷却タンク型高速炉の開発に取り組むテラパワー社などの企業です。
当社は、主要機器の輸出において30年以上の実績があり、ますます拡大する海外需要を踏まえ、引き続き積極的に対応していく考えです。
さらに、三菱重工は、開発から設計、製造、据付、保守まで、原子炉建設の全プロセスに対応できるOECD内の数少ない原子力プラントメーカーの一つです。国内で新しい原子炉を建設する経験を積んだ後に、将来的には、プラントの輸出を行う可能性もあります。
日本には、原子力特有の技術を持つ企業が400社以上あり、高度なサプライチェーンが国内に集積していることが強みです。東日本大震災後の困難な時期を乗り越え、サプライチェーンの維持・向上に努めています。採用活動については当社も力を入れており、今年度は従来の2倍規模となる200名を採用する予定です。
一般家庭に一年間電力を供給するには、800kgもの石油が必要ですが、濃縮ウランなら、わずか11gで同量のエネルギーを賄えます。電力需要が急増する中で、世界がネットゼロを実現するために、原子力の役割はますます重要になると確信しています。
注:特重施設とは、プラントとは完全に独立し、大型航空機衝突による大規模破損やテロによる占拠などの有事の際にプラントを安全に停止させるための施設です。
三菱重工技報 「原子力特集」で最新技術を紹介しています。