2024年、重工業に影響を与える6つのメガトレンド

2024-01-26
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専門家の知見や市場の情報、そして過去の経験を踏まえると、2024年は世界経済に大きな影響を与える新しいトレンドが現れるかもしれません。

専門家の分析によって、新しいトレンドが重工業にどのような影響を与え、それに対応するためにどのような戦略を展開すべきかを示すことができます。三菱重工グループの技術者に、2024年のメガトレンドが重工業にどのような影響を与えるのか伺いました。

1. サプライチェーンシフトの一歩先を行く

地政学的な緊張が高まるにつれて、戦略物資やその他の資源が外交手段として利用されるリスクが高まっています。エネルギー資源の安全保障に対する世界的な関心の高まりは、半導体、クリティカルミネラル(重要な鉱物)、医薬品、さらには穀物などの食料品の輸出制限につながり、企業は安定的な調達を確保するためにサプライチェーンの見直しを余儀なくされています。

一部のメーカーは、世界的な、経済あるいは政治的分断に対処するため、サプライチェーンを現地化する取り組みを行っています。この取り組みは、グローバルサウスの国々の影響力が高まる中、ますます重要度が高まっています。

2. グローバルな課題解決に向けた異分野連携

従来、重工業メーカーは、より優れた製品を生産することで競争力を高めてきました。しかし、脱炭素化などの複雑な産業的・社会的課題に対しては、単一の製品で対処できることは稀です。成功の鍵は、様々な分野の製品や専門知識、そしてデジタル技術の組み合わせが握っています。これが、メーカーがサステナビリティや資源の制約などの社会的課題に対処するために、ますます異分野間で協力している理由です。

三菱重工のデジタルイノベーションブランドであるΣSynX(シグマシンクス)は、その一例です。ΣSynXは、「かしこく・つなぐ」ことで人間と機械の連携を容易にし、知恵と技術を組み合わせる方法です。

ΣSynXは、コアテクノロジーとシステムプラットフォームを組み合わせて、予測計画、人と機械の協調、遠隔制御、検証と評価、遠隔保守などのソリューションを提供し、再生可能エネルギーの運用からデータセンターのエネルギー利用、物流倉庫の自動化まで、あらゆる領域を最適化します。

AI対応のデジタルプラットフォームにより、知恵と技術を組み合わせたスマートなソリューションを提案
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3. 自動化による人材不足への対応

昨今、人間の寿命は延びていますが、一方で、高齢化と出生率の低下が相まって、日本のような国では労働力の減少に直面しています。これは、現在の生産レベルを維持することが難しいことを意味しています。

こうした中、デジタル技術が人口格差を埋める上で重要な役割を果たします。産業用ロボットやオートメーション、その他の多くのスマート製造システムは、反復的な業務を引き継ぐことで、生産量を増やすことができます。これにより、人々はより高度な業務やクリエイティブな業務に携わることができるようになります。

三菱重工と三菱ロジスネクストは三菱重工が横浜で運営する「Yokohama Hardtech Hub(YHH)」のLogiQ X Lab(ロジックスラボ)において、倉庫物流向け自動ピッキングソリューションの実証を行っており、自動化および重筋作業の削減に関する研究を行っています。

4. 地産地消を推進する循環型経済

欧州や日本などの先進国の市場は、経済の成熟化や資源の制約に直面しています。しかし、循環型経済を確立・促進することで、エネルギー資源の安全保障強化と成長を両立することができるようになります。地産地消を推進することは、資源の効果的な活用、廃棄物やエネルギーコストの削減、環境意識の向上、新たな市場開拓につながります。

メーカーなどでは、既に循環型経済の構築に向けた最初の小規模プロジェクトが始まっています。しかし、真に持続可能なシステムを構築するには、現在の経済モデルを根本的に変える必要があり、それにはある程度の時間・研究・投資が必要となります。

2024年、サイバーセキュリティは極めて重要になる
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5. 安心・安全意識の高まり

三菱重工が提供する重要インフラおよび製造設備の制御システムをサイバー攻撃から守るソリューション「InterRSePT(インターセプト)」は、デバイス、プロセス、通信の動作をリアルタイムで監視し、重要なインフラや製造現場を保護することを目的としています。これにより、サイバー攻撃の検知だけでなく、迅速な対応が可能になります。

ハードウェアメーカーは、地政学的な緊張の高まりや自然災害に備えて製品の安全性とセキュリティ機能を強化する必要性を感じています。

6. 事業の成功と社会のためにサステナビリティを推進

企業が社会的課題に対処するための新たな戦略を採用するようになると、サステナビリティ(持続可能性)や脱炭素化などが変化の原動力となります。これは、生産の価値がハードウェア生産からソフトウェアやデジタルシステムを組み込んだワンストップソリューションへと発展することを意味します。そのため、三菱重工は今後デジタルの利用がますます進む将来を見据え、サステナブルな冷却、電力、エネルギーマネジメントを管理するデータセンターソリューションに取り組んでいます。

昨今、株主・パートナー・顧客に社会的価値を示すために、環境への影響や人権保護などの非財務情報を公開する企業が増えており、透明性の向上が図られています。重工業は、社会問題への対処と、現実的なエナジートランジションのソリューションを開発する必要性とのバランスを取らなければなりません。つまり、サステナビリティと事業の収益性を両立させることで、企業、顧客、そして地球にとってWin-Winな状況を生み出すことができるのです。

ジョニー・ウッド

ジョニー・ウッド

ジャーナリストとして、15年以上にわたりアジア、ヨーロッパ、中東の世界各地で活動。多くの特集記事執筆のほか、数々の一流ライフスタイル誌や企業出版物を編集。

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