カーボンニュートラル達成に向け、原子力にできること

2022-11-28
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世界的なカーボンニュートラル実現に向けた脱炭素化の潮流に加え、エネルギーセキュリティへの意識が高まっており、欧米主要国を中心に原子力の必要性が再認識されてきています。

原子力は二酸化炭素(CO2)を排出しないクリーンなエネルギーであり、欧州の持続可能な経済活動を分類する制度である「EUタクソノミー」では原子力を「グリーン」認定する最終案が発表されました。また、国際原子力機関 (IAEA) は、運転中にCO2を排出しない原子力の使用によって、現在でさえ年間20億トンものCO2排出量が削減されていると報告しています。これは、4億台もの自動車の排出量に相当します。さらに、国際エネルギー機関(IEA)の分析では2050年のカーボンニュートラル実現のためには世界の原子力発電設備容量の倍増が必要とされており、原子力は気候変動問題解決の大きな鍵となります。

安定した電力供給が可能

先述のメリットに加え、原子力であれば安定した電力供給が可能です。天候等によって出力が大きく変動する太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーとは異なり、供給の不安定さに悩まされることがないため、あらゆる電力供給網にとって理想的なベースロード電源となります。

昨今の再生可能エネルギーの不安定さに起因する電力需給ひっ迫や、ウクライナ情勢を発端とした天然ガス価格の高騰により、エネルギー安定供給リスクが顕在化し、世界中で原子力の位置づけが見直されています。

欧米の主要国はカーボンニュートラル達成に向け、原子力活用に大きく舵を切り、将来にわたって原子力の利用を継続する方針を打ち出しています。例として、イギリスでは大型炉を最大8基、フランスでは大型炉を最大14基、新設する計画を公表しています。

日本でも、カーボンニュートラル実現とエネルギー安定供給の両立には、大規模安定電源である原子力の貢献は欠かせません。世界第3位の経済大国である日本は、2020年度の電力需要の約76.3%を化石燃料(石炭・石油・天然ガス)に依存しており、再生可能エネルギーは約19.8%、原子力は約3.9%となっています。原子力の占める割合は2011年に発生した福島第一原子力発電所事故以前は約30%でしたが、事故後大幅に減少しました。その結果、CO2排出量は高止まりしており、また、天候による電気需要量の増加/太陽光発電による電気供給量減少(不安定性)も相まって、昨今の電力需給ひっ迫が引き起こされています。このような情勢を踏まえ、日本のエネルギー安定供給の再構築に向けた施策、及び脱炭素社会の実現に向けた今後10年のロードマップを議論するグリーントランスフォーメーション(GX)実行会議が設置されました。そして、第2回GX実行会議(2022/8/24)にて岸田首相が「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設」を検討するよう指示され、日本国内での新設・リプレースを含め、これまで停滞していた原子力政策に関する議論が本格化されることが期待されています。

より安全でレジリエンスが高い原子力プラントを、いかに実現するか

日本の原子力発電プラントメーカーのうち、三菱重工加圧水型原子炉(PWR)を国内で建設した唯一のメーカーであり、その数は24基に上ります。PWRでは原子炉において高温・高圧となった水を熱源として蒸気発生器で蒸気をつくり、その蒸気でタービンを駆動させます。2011年の福島第一原子力発電所事故の原因となった全電源喪失状態(SBO:Station Black Out)が発生した場合であっても、蒸気発生器を介して、放射性物質を含む冷却水を外部に漏らすことなく熱を逃がすことで原子炉を継続的に冷却することが可能であり、より安全性が高いのが特長です。

PWR発電プラントの仕組み
PWR発電プラントの仕組み

2011年の福島第一原子力発電所事故では、SBOにより炉心を冷却する機能が失われたことが被害拡大の引き金となりました。その福島第一原子力発電所事故の教訓から、世界一厳しいとされる日本の新規制基準が制定されています。三菱重工の「SRZ-1200」は、その新規制基準に適合するPWRをベースに、地震、津波など自然災害への耐性およびテロや不測事態へのセキュリティーの強化を図るとともに、新たな安全メカニズムを組み込むことで世界最高水準の安全性を実現する革新軽水炉です。新たな安全メカニズムとしては、事故時の炉心冷却に用いられる高性能蓄圧タンク[プラントの状態に応じて電源不要で自動作動する設備(パッシブ設備)]や世界最新技術の溶融炉心対策であるコアキャッチャー(溶融デブリを格納容器内で確実に保持・冷却する設備)、世界初の三菱重工独自の放射性物質放出防止システム(万ーの重大事故時に放出される放射能量を低減し、影響を発電所敷地内に留めるためのシステム)などが挙げられます。

この革新軽水炉『SRZ-1200』の名称に、「Supreme Safety(超安全)」 、 「Resilient(しなやかで強靭な)」 、「Zero Carbon(CO2 排出ゼロ)」などの意味が込められているのも頷けます。

世界中でカーボンニュートラルの実現とエネルギー安全保障の両面から原子力の活用への期待が高まっている状況の中、三菱重工は日本のPWR4電力(北海道電力株式会社、関西電力株式会社、四国電力株式会社、九州電力株式会社)と共同で革新軽水炉「SRZ-1200」の開発を進めていることを公表しました。

『SRZ-1200』のような新しい安全な原子炉の建設を通じて、より安心・安全な社会の実現に貢献するという三菱重工の思いが実現されれば、日本のカーボンニュートラル実現に対しても貢献できるのではないでしょうか。

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ダニエル・ボーグラー

ジャーナリスト。25年以上にわたり、アジア、ヨーロッパ、アメリカの国際的な報道機関で勤務した経験をもつ。

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